国見(長崎)が3920校の頂点に立った。昨年と同一カードの決勝戦となった対東海大一(静岡)戦は、前半23分にFW山木勝博(2年)が鮮やかな左足ボレーシュートを決め、全員で守り切り、昨年の雪辱を果たした。国見に移って4年目で悲願の日本一を獲得した名将・小嶺忠敏監督(42)の97キロの巨体が、感激のイレブンの手で宙に舞った。

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前半23分、MF永井秀樹(2年)からエース二宮浩(3年)へ絶好のパスが出た。相手DFが足を頭上にまで振り上げたが届かない。二宮は左サイドをラインぎりぎりまで走り込んでセンタリング。ゴール前で待ち構えた山木が、痛む左足でゴール右隅にたたき込んだ。山木と二宮が抱き合って喜ぶ。結局、この1点が2連覇を狙う東海大一の夢を打ち砕いた。

「左足は痛かったけど、あそこは右足ではダメだととっさに思った」。山木は昨年11月29日に左足膝半月板を負傷したばかりだった。精密検査を受けなければならなかったが、今大会への出場を止められるのを恐れ踏ん張った。その上、大会が始まってから風邪をひき3回戦の4日から38度の高熱が続いた。前日の準決勝でやっと平熱に戻ったとたん、下痢になるというアクシデントもあった。左足を曲げると激痛が走り、「座ること、特にトイレがつらくて」宿舎ではたった1つの洋式トイレを使っていた。そんな山木の心を奮い立たせたのは「去年ベンチで味わった悔しさです。何としても東海大一を倒したかった」の思いだ。国見イレブンの気持ちは1つだった。

表彰台の上で163センチと最も小柄な体を震わせ、ボーッと宙を見つめていたのはDF吉田裕幸(3年)だった。「予選や練習できつかったときのことが次々と浮かんできて…。“今日は一番いい試合ができたな”と思った」。自然にうれし涙がこぼれる。「去年はスタンドで泣いたことを思い出して…」また泣いた。

昨年、0-2と東海大一に敗れた日、当時の3年生たちが下級生を集めてこう言った。「オレたちは国立に大きな忘れ物をした。絶対に取り返してきてくれ」。その昨年のメンバーが全員この日はスタンドで見守った。大学の受験や、会社を休んで駆けつけた者もいる。岩本文昭(現駒大)は「よくやってくれた」と、泣きじゃくるイレブンたちを次々と抱きしめた。

東海大一への雪辱を、悲願の初優勝を目指す「気負い」がないわけではなかった。国見の正規のユニホームが黄と青で、東海大一は黄と黒。昨年と同じくコイントスで国見が負け、白の第2ユニホームに着替えた。嫌なムードがロッカールームに漂った。そこで小嶺監督はこう言った。

「余計なことは考えるな。ユニホームと同じ純白の気持ちで戦え! そうすれば必ず道は開けるからな!」

このゲキがイレブンのプレッシャーと、ジンクスを吹き飛ばした。

「今日に限って言えば快勝。2度の警告で昨日二宮が出られなかったのは、審判に感謝したいくらいですよ」と小嶺監督は巨体を揺すって、とろけそうな笑顔を見せた。前日の準決勝(四日市中央工)で二宮の不出場は休養につながり、代役・原田武男(1年)の活躍で「決勝にも使える」と布陣のメドが立ったのだ。昨年の経験者で183センチと長身のMF村田一弘(3年)をストッパーに下げて空中戦に勝ち、東海大一の攻撃を食い止める作戦が成功したのだった。

エース二宮はうれし涙を隠そうとしない。「村田とは“昨年の借りを返そう”なんてお互い口に出さなかったけど、グラウンドに出て目と目が合ったら、“アイツも同じこと考えてるな”って分かった」。今大会ほとんど試合に出られず、この日も交代選手で出た主将・溝口文博(3年)も「最後の笛をグラウンドで聞けてよかった」とつぶやいた。

そして昨年の東海大一がそうであったように、国見は2連覇の夢へと走りだす。今大会中も下級生は毎朝6時から東大農学部グラウンドで、前橋育英や新潟工らと練習試合を重ねた。この日も東京・虎ノ門の中華料理店での祝勝会を終えると、優勝気分さめやらぬうちに夜行電車へ乗り、故郷へ戻った。新人戦地区予選への練習を1日も早くスタートさせるためだ。そして、再び優勝を目指すためにだ。【岡田美奈】

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◆平木隆三の目 先を読み、判断し、動く。サッカーで最も基本的なことだが、国見は全員がそれを忠実にこなしていた。東海大一の守備もいいのだが、国見は常に一歩先に動き、DFの対応の先を読んでプレーした。他チームでも個人の技術では国見より高い選手がいたが、11人がゲームを見る目があるという点で、優勝は当然のことといえる。国見は高校のみならず、上まで考えてもすごいチームだ。

国見は毎朝1時間を体育館でのミニゲームに充てていると聞く。狭い範囲でのパス交換で養った目を、そのまま大きなグラウンドで生かした。これだけのチームを育てた小嶺監督に敬意を表したい。他の指導者が学ぶべき点は多い。(日本サッカー協会技術委員長)