今夏で退団する神戸MFアンドレス・イニエスタ(39)が、古巣のバルセロナ(スペイン)を相手に千両役者ぶりを発揮した。

高い技術のパスやシュートなどで見せ場をつくり、後半36分までプレーした。ノーゴールで試合も0-2と敗れたが、5万人近いファンからは喝采を浴びた。7月1日に本拠地ノエビアスタジアム神戸で行われる札幌戦を最後に、日本のファンに別れを告げる。

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後半36分、交代ボードに8番が掲げられると、会場の視線は一気にMFイニエスタに向けられ、大きな拍手に包まれた。キャプテンマークを外し、バルセロナMFガビや主審らとタッチを交わしてピッチを出ると、そこに歩み寄ったのは盟友シャビ監督。熱い抱擁がかわされると、国立競技場にはこの日最大の歓声が沸き起こった。

「自分にとって特別な日だった。バルサが強行日程で来てくれて感謝しているし、みんなにとって楽しい1日になって、うれしい」

シャビ監督とともにバルセロナの黄金期を作り、スペイン代表としても10年W杯南アフリカ大会で優勝するなど、多くのタイトルをともにしてきた2人。シャビ監督は「彼は私にとって常に素晴らしい選手の1人であり、スペインとバルセロナのサッカーに素晴らしいものをもたらした1人」と話した。そんな相棒との熱い抱擁が、ハイライトとなった。

まさに自身のために組まれた試合で、イニエスタは輝きを放ち続けた。序盤はスルーパスや巧みなボールタッチで観客を沸かせる。前半45分には、MF斉藤とのワンツーでゴール前に入ってダイレクトシュートを放った。ピッチを後にするまでの80分間、シンプルながら絶妙のタッチと長短織り交ぜた多彩なパスで、技術がさび付いていないことを証明し続けた。

試合後には、バルセロナ側から全選手のサインと自身の名前が入った8番のユニホームを贈られ、両軍のメンバーで記念撮影。スペインで、そして日本でも愛されたイニエスタが主役だからこその光景だった。

最後に場内1周した際には、思わず涙があふれ、もらったユニホームでそっと拭った。

「5年間、ここでの経験が人生の一部になっている。それを思い出すと特別な感情がこみ上げてきた」

20年元日に天皇杯を制し、神戸に初タイトルを獲得した思い出深い場所での一戦は、これまで数え切れないほどの栄冠を手にしてきた背番号8にとっても、特別な夜になった。日本サッカーにさまざまな財産をもたらしたレジェンドが、次にどの国で輝きを放つのか、まだ目は離せない。【永田淳】