天皇杯を制した川崎Fの鬼木達監督(49)が、日刊スポーツに手記を寄せた。7季目は主将だったDF谷口彰悟が抜け、シーズン序盤から負傷者が続出。不安定な戦いも、後半戦に立て直した。今季限りの退任も意識した中、苦悩、ターニングポイント、続投、タイトル獲得の意義を示した。

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今年はチャレンジの1年でした。クラブからは若手の育成を託されて、でも僕は基本やっぱり勝ちたい人間なので、そこを外さず、どれだけ両方できるのかという思いをもってスタートしました。監督を何年もやっていると、クラブがいい時期もあれば、難しい時が訪れることも分かっていました。今季は勝てない日々も続きましたが、それは僕も選手も初めての経験。その中で一番重要だったことは、自分たちから崩れないこと、自分たちに矢印を向けて向上することでした。

いくつかあったターニングポイントは、後半戦で言えば9月29日のリーグ新潟戦(2-3)ですね。安定感を欠いた時期で、その2週間前の東京との多摩川クラシコ(1-0)から「バランスを取ってでも勝たせなければいけない」とフォーカスして、守備のやり方を少し変えていたんです。

新潟戦はむしろ(ボールを動かす特長の)相手にあのサッカーをやれば、難しいゲームになるかもしれないことは当然、頭の中にはありました。もちろん負けを覚悟していたわけではないですよ。でも、非常に難しい相手に対し、自分たちからアクションを起こさなければ、何でもやられてしまう。勝っても負けても「進むべき道がハッキリするだろうな」と思っていました。4日後のACL蔚山戦(1-0)から従来のアグレッシブな守備に戻し「勝負の1週間」と掲げ、さらに5日後の天皇杯準決勝・福岡戦(4-2)に勝てたことが転機になりました。

監督という仕事は1年勝負です。7年やって「どこか別のクラブに行く」だけではなく「やる」か「やらないか」含め「どこかで1度、立ち止まるべきかな」と思うことも、やはり夏ごろにはありました。休むことも必要かもしれないと頭にはありつつ、チャレンジし続けたい思いもあり、正直すごく悩んでいました。

結局「もっともっとできることがあるんじゃないか」と。選手たちにもすごく可能性を感じていたし、昨季から「カップ戦の決勝っていいな」とも思い始めていたし。何より、自分とクラブに足りないものは何かと言えば、ACLの、アジアのタイトルなんだなと。決勝トーナメントが来年になったこともあり、やっぱりもう1度、挑戦しようという思いになれたんです。

その過程として、難しいシーズンになったことは間違いありません。それだけに、これまでのタイトルとは多少なりとも違う喜びがありますね。チームとしても個人としても、実際は伸びてきています。その意味で、自分と向き合い、崩れずやってきたことは間違っていませんでした。今回、またタイトルを取ることによって、選手の努力が自信から確信に変わってくれたら最高にうれしいですね。

来年、川崎市が市制100周年を迎えますし、その期待にも応えたい。若手はもちろん、ベテランにも、もう1段上の要求をしてまだ伸ばしたい。他では見せられないものを、今のみんなで作り上げていきます。(川崎フロンターレ監督)