町田ゼルビアの黒田剛監督(53)が明治安田J1開幕を控えた22日、東京・町田市内のクラブ施設で新シーズンへの意気込みを語った。

初のJ1。24日にガンバ大阪をホームに迎える。チケットはほぼ完売。約1万5000人収容の町田GIONスタジアムで、過去最多となる1万4000人ほどの集客が見込まれている。

「J1となれば日本サッカーを引っ張ってきたチームもあるし、クオリティーもある。だから胸を借りるつもりで臨まなきゃならない。謙虚に戦いたいなと思います」

ちまたにあふれる「これだけやってきたから大丈夫」という漠然とした「自信」という言葉が嫌いだ。むしろ不安を持つ方が伸びシロになると考えている。

「まだまだ積み上げなければいけない材料を重ねていった方がいい。根拠のない希望を持ってもしょうがないどれだけ細かいところを整理し、スキをなくしていく作業をできるか」

今季は3チームが降格する。それだけにシビアに現実を直視している。

「確実に勝ち点1以上を取っていく、負けないサッカーをしていく、失点をしないこと。そういう自分たちのマイナスの要因を少しずつ排除していくが大事」

現実を直視しながらも、チームとしては今季目標は5位以内、勝ち点70と設定している。「突き抜けたことを求め続けることで成長できる」。手が届くところで目標をつくるのでなく、求めるものが大きいほど日常生活や習慣が変わってくるという考え方がある。

勝負師。青森山田高を常勝軍団に育て上げる中で、神社を参拝するようになった。「行き始めてからすごく運気が上がった。ここ8、9年の青森山田の実績ってすごいじゃないですか。プレミアの優勝も含めて、流れがきている」。全国選手権で毎年東京に宿泊すると足しげく神社に通った。その数は「二十数カ所は行った」と言う。

「神社に行くと自分を見つめ直す時間を作れる。クラブハウスと家だけの行き帰りだと、なかなか自分を見つめ返したり、またはポッといろんなアイデアが浮かんだりという時間がなない。そこで手を合わしたり、1人になった時に『ん?』と思うようなことが出てくる」

いわば最後のピースを埋める作業。多くの経営者がするように、黒田監督もまた「神頼み」という所作の裏で自らと対話し、悟りを開いている。

ただ“験担ぎ”を大事にする指揮官だが、試合当日に「カツ丼は食べない」と苦笑い。「おなかがいっぱいになると頭が動かないので、空腹でいることが多い。胃がきりきりすることもあるけど、そっちの方が心地よかったりする」。

黒田監督と言えば、ロングスローが枕詞(まくらことば)として語られる。そこはCKやFKと変わらぬ有効なセットプレーという認識からだ。

「CKを蹴るのと同じようにリスタートとしては(相手にとって)難しいものになる。ライナー性がくるのか、短いのが来てフリックするのか、ゴール前まで一気に飛んでくるのか」

ほかのセットプレーとは違い、スローインにはオフサイドがないのが一番の利点。「もしかしたら一番有効性があるかもしれない」というほどだ。

また、ロングスローを警戒して相手チームは前線に残っている選手まで下がってくる。前残りする選手を後方にいったん下げることで、カウンター攻撃の確率を下げるという狙いもある。

「ロングスローって攻撃のセッションだけど、守備においても有効性が高いという考え方もできる。こちらの選手の頭を少し休める、心肺を休める、コミュニケーションを取る時間にもつながってくる。多分、いろんな効果がある。効果がありすぎるからブーイングもある」

ただ町田からすれば、あくまで多くの手を持つ中での「一つの武器にすぎない」と断る。何より相手のスキを突く「トランジション」、攻守の切り替えの速さと決定的な仕事ができるFW陣。そこへ昌子源ら最終ラインも完備されているのだから。

J1で監督を務めることへの喜びや誇りはあるが、今は気持ちに余裕がないのが本音のようだ。

「いっぱいやることがありそう。1年間が終わった時に感じることができるのかなっていうふうに思う。今はひたすら考えて、心配して。毎日毎日、どういう手を打つか、思考していくことの方が重要かなと思います」

あまりにも出来過ぎたプロ監督1年目でのJ2優勝。そして迎えるJ1という舞台へ。黒田監督率いるゼルビアの挑戦、その第2章が幕を開ける。【佐藤隆志】