アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)で初のファイナル進出を決めた横浜ハリー・キューウェル監督(45)にとって、決勝は因縁の大一番となった。対戦するアルアイン(UAE)を率いるのはアルゼンチン人のエルナン・クレスポ監督(48)。くしくもリバプール所属の2004-05年の欧州チャンピオンズリーグ(CL)決勝で戦ったACミランの名FW。ACL決勝は第1戦が5月11日ホーム、決着がつく第2戦は同25日アウェー。19年前と同じ「5月25日」に優勝が決まるだけに、両指揮官への注目度が高まっている。

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運命のイタズラとはこのことか。ACL史上に残る蔚山(韓国)との死闘を経て、思いがけぬ因縁が浮き上がった。キューウェルVSクレスポ。決勝に進出した両指揮官は「イスタンブールの奇跡」を戦った者同士。あれから19年、再び「チャンピオンズリーグ」で相まみえることになった。

激戦から一夜明けた25日午前。夏のような日差しの下、キューウェル監督はいつも通り練習場のピッチにいた。勝利の余韻に浸ることなく次に向けた準備を進めていた。引き揚げてきた指揮官に「よく眠れましたか?」。そう問うと笑顔で「グレート・スリープ!」。そしてクレスポ監督との因縁に話を向けた途端、表情から笑みが消えた。

「クラブにとって昨日という時間が本当に大事でしたし、相手がどこであろうと相手の監督がクレスポさんで、自分がキューウェルだろうと、過去のことを出されたところで何の興味もない。このチームがどれだけのことをして次のステージに向かうか。求められる特別な瞬間のために、自分たちはアメージング・ジャーニーを続けていく。その準備をするだけなんだ」

自身にとって19年前の欧州CLは「満足できない大会だった」。負傷を抱えたまま先発し、本来の力を出せず途中交代。じくじたる思いがある。一方でチームが一体となり、最後まで戦い抜くことの大事さを知った。「あきらめない姿勢が目に焼き付いている。だからこそマジックが起きた」。それは逆境で耐えた蔚山戦でも同じ。現役時代の教訓が今につながっている。

選手より自身が注目されることは良しとしない。並行するJリーグとの過密日程の中、チームマネジメントに心を砕く。「過去を崩して新たなページを開いていく。そのためのいい準備をしたい」。自らの因縁は封印し黒子として勝負に徹する。それでも運命の「5・25」は間違いなくヒートアップする。【佐藤隆志】

◆イスタンブールの奇跡 05年5月25日にトルコ・イスタンブールで行われた欧州CL決勝。リバプールがACミランをPK戦の末に下し、21季ぶり5度目の優勝を果たした。前半に3点を先行されながら、後半9分からの6分間で同点。3-3でもつれ込んだ延長戦後のPK戦を3-2で制した。欧州CLの決勝で0-3から追いついたのは史上初。ACミランはFWクレスポの2得点などでリードを広げたが、リバプールが驚異的な粘りを見せ、PK戦ではGKドゥデクが相手のキックを3本防いだ。