王国がまたも早すぎる終焉(しゅうえん)を迎えた。FIFAランキング1位のブラジルが9日、前回準優勝のクロアチア(同12位)に準々決勝で敗れ、2大会連続で4強入りを逃した。

FWネイマール(30=パリ・サンジェルマン)が延長前半ロスタイムに先制ゴールを決めるも、試合終了間際に追いつかれてPK戦の末に敗戦。代表通算最多77得点で王様ペレに並ぶも、病床に伏すレジェンドに優勝を届けることはできなかった。

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ネイマールは子どものように、泣きじゃくっていた。涙がとめどなくつたう頬を、何度も何度も拭った。ピッチの中央で膝を抱え、最後まで立ち上がることができなかった。

「悪夢のようだ。何が起きているのか、信じられない。この敗北に長い間傷つくだろう。それが、とても悲しい」

鮮烈な輝きを放ったからこそ残酷さが浮き彫りになる。0-0と緊迫した試合。迎えた延長前半15分、中央で味方とワンタッチでパスをつなぎ、相手DFを翻弄(ほんろう)。自らペナルティーエリア奥へ切り込むと、ドリブルでGKをかわし強烈なゴールを突き刺した。「誰も破ることができない」と言われていた、王様ペレの代表通算77得点に並ぶ記録。しかし、歓喜は一瞬だった。

「今は話すのが難しいし、何も言いたくない。ただ、ゲームで起こったことがすべて。誰のせいでもないし、僕らは一緒に勝ち、一緒に負ける」。

病床のレジェンドへ、王国ブラジルが再び頂点に立つ姿を-。82歳のペレは、コロナで悪化した呼吸器感染症で病床にいる。5日の韓国戦の後、ネイマールはペレの姿と名前の入った横断幕を持ち、回復を祈った。夢まであと1歩、優勝トロフィーを届けることはできなかった。

敗れたが、その振る舞いは超一流だった。涙を流すネイマールのもとに子どもが駆け寄った。クロアチアFWペリシッチの息子だった。スタッフに制止されながら声をかけてきた「レオ君」の慰めに応じて握手し、優しく抱き締めた。

また、PKの1番手で止められ、失意のどん底にいる9歳下のFWロドリゴも力強く抱き締めた。「彼は1人ではない。私たちはみんな彼とともにいる。僕らは戦い、進んでPKを蹴った選手たちを誇りに思う」。5番手だったネイマールに蹴る機会はなかったが、悔しさは胸にそっとしまい、仲間をたたえた。

「残念ながら、夢を実現出来なかったが、それがサッカーであり、起こり得ること。今は家に帰り、嘆き悲しみ、敗北に苦しむ時」

18歳でA代表デビューしてから12年、3度目の大舞台。またしても喜びの涙を流すことはできなかった。

<ネイマールのW杯3大会>

◆14年ブラジル大会 母国開催で5試合4得点と活躍していたが、準々決勝のコロンビア戦で、相手DFスニガの膝蹴りを受け、腰椎骨折の重傷。その後の会見で涙を流し「神のご加護があった。あと2センチずれていたら、今ごろは車いすに乗っていたかもしれない」と話した。ネイマールを欠くチームは準決勝でドイツに1-7と惨敗。「ミネイロンの惨劇」と呼ばれ、3位決定戦でもオランダに0-3で完封負けを喫した。

◆18年ロシア大会 右足首と第5中足骨を痛め、直前の6月に復帰するも、完全復活とはならず。2ゴール1アシストを決めたが、準々決勝で1-2でベルギーに敗戦。一方で、相手のチャージに対する過剰演技で批判が集まり「私には未熟な部分がある。世界を魅了できることもあれば、いら立たせてしまうこともある」と言及した。

◆22年カタール大会 1次リーグ初戦のセルビア戦で右足首靱帯(じんたい)損傷を負うも、決勝トーナメント1回戦の韓国戦で3試合ぶりに復帰。前半13分にPKを決め、ペレ、ロナウドに続くブラジル史上3人目のW杯3大会連続ゴールを達成した。