ベスト8の戦いが始まる。その前に今大会注目のストライカーを考察したい。

 まずはフランスの新星、19歳のエムバペ。爆発的なスピードでを生かしてアルゼンチンから2点を奪い、一気に注目度が高まっている。相手チームが嫌なボールの失い方をすれば、一発でゴール前まで持ち込んでしまう。この「1人カウンター」は所属するパリサンジェルマンでもよく見せているプレーだ。

 1歩目から速い。アルゼンチン戦の1点目につながったPK獲得の場面、スピードが上がった状態で、さらにギアを一段上げてスピードアップした。DFからすればペナルティーエリア外で止めたいところだが、中で倒してしまった。日本人のスピード選手だとスピードだけで終わってしまうが、エムバペはスピードだけに終わらず技術、パワーがあり、プラスアルファのプレーができる。さらにシュートもうまい。

 エムバペの突破力を高めているのは優れた身体能力に加え、いち早くスペースを見つけるコース取りのうまさ、その状況判断の素晴らしさだ。ネイマールのようにDFに向かってドリブルし、間合いとタイミングでかわしていくスタイルとは異なり、スペースを突くことでギアを上げて加速し、並走する相手を置き去りにしてかかる。

 また、身長178センチと大柄ではないが、フェイントが大きく、懐の深いプレーができる。ここで言う「懐が深い」プレーとは、軸足から離れた位置にあるボールでも自在に扱えること。エムバペはドリブルしながら、軸足から遠いボールもしっかりコントロールしている。このプレーを可能にしているのは、股関節の柔らかさと上半身のしなやかさ。全身がまるでバネのようだ。

 次に対戦するウルグアイからすれば、1人カウンターに持ち込まれないよう、常にエムバペの位置を気にする「恐怖心」にさいなまれることになるだろう。

 ウルグアイの2トップ、スアレス、カバニの連係には目を見張るものがある。ポルトガル戦で見せた両サイドを大きく使った「ワンツーパス」が話題となっているが、常に互いのポジションを意識しながらプレーしている。スアレスはDFの背後へドリブルで仕掛けることができ、カバニはゴール前で見せるダイナミックなプレーが持ち味。ポルトガル戦の2点目の場面でもスアレスがスルーして、カバニのゴールを演出していた。

 かつて私が浦和レッズに在籍している時に、監督だったブッフバルトさんに聞いた話がある。90年ワールドカップ(W杯)イタリア大会決勝でアルゼンチンのマラドーナをマンマークして封じたが、「いくらマラドーナでも1人なら抑えようがある。だが2人になるとまったく違う」と。ブッフバルトさんがシュツットガルトでナポリと対戦した際、相手にはマラドーナとブラジル代表のエース、カレッカがいた。2人にあうんの呼吸でプレーされると抑えようがなかったという。今回のウルグアイも2トップが個人でなく、チームのためにプレーしている。となれば得点力は必然的に高まってくる。

 得点ランク首位に立っているのが、今大会6ゴールのイングランドのケーン。ポストプレーヤーとして攻撃の起点となりつつ、ゴール前へ入っていってゴールを奪う。注目したいのが、フリーでシュートを放つ場面が多いこと。つまり、シュートを打てるスペースを見つけるのがうまい。

 マークしているDFからすれば、ボールを見る一瞬のスキに、ケーンが視野から消えてしまう。この捕まえ切れない動きのうまさに加え、右足、左足、頭とどこでもシュートが打てるからこそ得点が奪える。トットナムで見せるプレーが今大会もっと出てくれば、W杯得点王の称号を手にするだろう。

(永井雄一郎=プロサッカー選手、元日本代表)