「今大会は面白くなりそうだぞ」。そう思わせるのに十分な、ド派手な開幕戦だった。FIFAランク70位で出場32カ国中最下位のロシアと同67位でブービーのサウジアラビア。W杯でも開幕戦でなければ、これほど真剣に見るカードではない。ところが、試合が始まると眠気も吹っ飛んだ。

 地元の大声援に背中を押されたのか、W杯でアドレナリンが上がったのか、ロシアが試合開始早々から積極的に前に出る。サウジアラビアも応戦し、ヒートアップしていった。球際の当たりが激しく、攻守の切り替えも速かった。「最後まで持つのか」と思わせる展開の中、ロシアが2点リードして前半が終わった。

 緊張する開幕戦、しかもロシアは昨年10月から8カ月も勝っていない。後半は手堅く勝ちにいくと思っていたが、さらに攻めた。途中サウジアラビアの時間もあったが、ロスタイムの2ゴールを含めて計5点。総走行距離118キロと、最後まで運動量が落ちず「史上最弱」と言われた開催国が大勝した。

 74年大会から02年大会まで、開幕戦は前回優勝国が務めていた。06年大会以降は開催国が登場している。34、54、62年大会は開催国を含む複数試合を同時に開催。FIFAは後年になって、この3大会も開催国の試合を開幕戦と認定している。34年大会で開催国イタリアが7-1で米国に大勝したのが開幕戦の最多得点記録、ロシアの5得点はこれに次ぐが、全世界が注目する単独の「開幕戦」での大量ゴールだから衝撃も大きい。

 大きいのは気候だ。序盤からあれだけ激しく動きながら、90分間落ちなかったのは気温が低かったから。前回のブラジル、前々回の南アフリカ、さらに02年の日韓と、コンディショニングで失敗するチームが多かった。ロシア入りした記者は「想像以上に寒い」とこぼすが、プレーには最適。試合開始時で気温17度、湿度43%という「寒さ」が選手を後押しする。

 夏の暑さはパフォーマンスを落とす。だから、多くの国のシーズンは秋から春で、夏は休む。W杯は本来休んでいる時期に開催するのだから、暑さ対策は必須になる。しかし、今回は不安が少ない。選手は90分間フルパワーで、最高のパフォーマンスを発揮できるはずだ。近年最高の大会になる可能性もある。ロシアの大勝が抱かせてくれた、大会への期待。まだ1試合、残り63試合からも目が離せない。【荻島弘一】