ロナウドのハットトリックには鳥肌が立った。自らのドリブルで獲得した試合早々のPKを決め、左足の豪快なシュートでGKのミスを誘った。敗色濃厚の終了間際には芸術的かつ力強いFKで劇的同点弾。世界の注目選手が、開幕2日目でエンジン全開のパフォーマンスをみせた。

 深夜の疲れた目では追いつけないほどのスペインのパス交換。通したパスは677本で、ポルトガルの倍以上だった。そんな完成されたパスサッカーを粉砕したロナウド(勝ったわけではないけれど)。眠気など覚える間もなかった。

 残念だったのは、スペインでパス回しの中心になっていたイニエスタの途中交代。先を考えて休ませたのかもしれないが、もし最後までピッチにいたら結果は違っていたかもしれない。ロナウドのFKが怖いのは分かっていたのだから、自陣深くで相手にボールを持たせてはいけなかった。イニエスタなら、もう少し気の利いた時間の使い方ができたのではないかと思う。

 とはいえ、やはりロナウドはすごかった。今大会第1号のハットトリックは、ワールドカップ(W杯)史上51人目。ポルトガル選手では3人目だった。相手がスペインだったということでテンションが上がったのか、試合中の表情も気合に満ちていた。試合終了の瞬間、勝ち点1に満足したように大きくうなずいた顔が印象的だった。

 過去10年、世界のサッカー界をアルゼンチン代表のメッシとともに引っ張ってきた。しかし、W杯ではメッシ同様に結果が出せていない。過去3大会出場したが、最高は06年の4位。頂点に立つのは、今回がラストチャンスになるだろう。

 スペイン戦を見て「今大会のロナウドは違う」と感じた。と同時に「上位は難しいのでは」と心配にもなる。大会は長丁場、ピークを維持するのは難しい。前回大会ではドイツのミュラーが1次リーグ初戦のポルトガル戦でハットトリックしたが、残る6試合では2点止まり。誰でも点の取れるドイツだから優勝できたけれど、ポルトガルはロナウド頼みなのだ。

 強靱(きょうじん)な肉体を武器にするロナウドだが、激しい試合が続くW杯でコンスタントに輝き続けることができるのか。欧州チャンピオンズリーグの疲れはないのか。ポルトガルの最高成績は66年イングランド大会の3位。それを上回るためには、ロナウドが超人的な活躍を続けるしかない。プレーはもちろん、その容姿でも人気のあるスーパースター。もしポルトガルが優勝すれば「ロナウドの大会」になることは間違いない。【荻島弘一】