セネガル戦の前半終了間際、相手FKの場面でゴール前を守る日本選手が一斉にラインを上げた。セネガル選手6人を置き去りにする完璧な「オフサイド・トラップ」。見事な日本の戦術を見て、世界中に絶賛の声が広がっているという。

 思わず「懐かしいなあ」と声が出てしまった。サッカー部でプレーしていたころ、よくやっていた戦術だった。守備を統率するスイーパー(センターバック)の合図で、一斉に自陣ゴールから離れる。攻撃選手がオフサイドポジションに取り残された相手は、チャンスの芽を摘むことになる。

 よく失敗した。全員の動きに遅れるチームメートがいて、オフサイドにすることができない。ゴール前で「どフリー」になった相手に楽々とゴールを許す。GKが「何やってんだよ」とキレる。そして、チーム内で罵倒合戦が始まる。そんな経験をした人も、決して少なくはないだろう。

ヨハン・クライフ(左)(1980年1月10日撮影)
ヨハン・クライフ(左)(1980年1月10日撮影)

 74年の西ドイツ大会で旋風を起こしたクライフ率いるオランダの影響だ。今では当たり前の全員攻撃全員守備だが、当時は「攻守分業」が当たり前。11人がクライフを中心に連動して動くサッカーは「トータル・フットボール」と呼ばれて世界に衝撃を与えた。

 そのオランダがやっていたのが「オフサイド・トラップ」だった。クライフの合図で全員がゴール前から離れ、相手のFWを置き去りにする。技術も戦術も未熟な中高生が、見よう見まねでやった。決まった時にかっこよかったからだ。

 最近は、セネガル戦の日本ほど美しい「トラップ」は見ない。というより、やらない。失敗もあるし、審判がオフサイドを見落とす可能性もある。リスクが大きすぎて、やるメリットがなかったからだ。

セネガル戦で指示を出す日本代表西野朗監督(2018年6月24日撮影)
セネガル戦で指示を出す日本代表西野朗監督(2018年6月24日撮影)

 しかし、西野監督は自信を持っていたのだろう。練習では完璧にできていたはずだ。VARがあるから、審判が見落とす可能性も少ない。何よりも、1度見せることで相手も警戒する。長谷部ではないけれど「何かある」と思わせることが重要なのだ。「美しすぎるオフサイド・トラップ」を決めた意味は大きい。

 西野監督も「クライフ世代」。現役時代から「憧れだった」と話したことがある。あのオランダ代表が74年大会で決めた「かっこいい」戦術を、44年ぶりに同じ舞台で再現してみせた。次の秘策は何か? ヒントは意外と過去のW杯にあるかもしれない。