延長戦が終わった瞬間、コロンビアの勝ちを確信した。「イングランドはPK戦で勝てない」は有名なワールドカップ(W杯)のトリビア。90年イタリア大会では西ドイツに敗れてガスコインが泣き、リネカーが「最後に勝つのはドイツ」と自虐的に言った。ベッカムが退場になった98年フランス大会ではアルゼンチンに敗れ、06年にはポルトガルに完敗した。とにかくPK戦に弱かった。

 逆にドイツやアルゼンチンは強い。ドイツはW杯で初めてPK戦になった82年スペイン大会準決勝でフランスを破るなど4戦全勝。アルゼンチンも4勝1敗で勝利8割を記録する。はっきり分かれるPK戦の「強者」と「弱者」。決して偶然によるものではない。

 イングランドがPK戦に弱いのは「母国」としてのプライドが捨てられないからか。もともと引き分けの場合は「再試合」というのがイングランド流。日本の天皇杯にあたるFA杯も基本は「再試合」だった。近年は過密日程の問題から準々決勝以降はPK戦が導入されたが、それ以外は90分間で決着がつかない場合は日を改めて再戦になる。再試合、再々試合…と続くことも珍しくなかった。

 だから「PK戦は競技の本質と違う」となるのだろう。深層心理にそれがあるから、練習をしていても身が入らないのかも。「PK戦は仕方ない」という国民感情も、弱い代表を後押しする。複数のボールを使って試合進行をスムーズにする「マルチボール」が当たり前なのに、いまだに1個のボールで試合をする。そんな頑固な「母国のプライド」が強化を妨げる。

 ただ、今回の代表チームは違う。前回までの「PK戦弱者」から大幅にメンバーが入れ替わった。24歳のGKピックフォードは「相手のPKは事前に研究していた。PK戦で勝てると思っていた」と話した。これほど自信たっぷりにPK戦に臨んだイングランド代表は初めてかもしれない。彼らは「母国のプライド」を捨てて練習したのだ。

 日本発祥のスポーツに柔道がある。「しっかり組んで一本を狙う」柔道を目標としているが、それだけでは世界で勝てなくなっているのも事実。井上康生監督は2年後の東京五輪に向けて諸外国や他競技にも学ぶという。発祥国のプライドに「あぐら」をかいていては、世界では勝てない。

 いいブロックに入ったイングランドがどこまで勝ち進むか。若い選手の成長とともに楽しみ。プライドばかりが高くても、勝つことはできない。ムダなプライドを捨てるところから、勝機が生まれるような気がするのだが。

【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIの毎日がW杯」)