前回大会準優勝のアルゼンチンが「メッシ依存症」でチーム崩壊の危機に立たされた。エースのリオネル・メッシ主将(30)は多くのパスを受けながらも前線で孤立。両チーム最多11本のシュートも不発で、PKも止められる始末だった。チームも大会初出場のアイスランドに1-1と屈辱的な引き分け。エース頼みの攻撃は機能せず、優勝どころか1次リーグ突破にも暗雲が垂れ込めてきた。

 前半17分、右サイドからゴール前に切れ込んで左足シュート-。メッシが得意の形で狙ったが、ゴールは遠かった。攻撃ではほとんどのパスが集まった。前を向いて仕掛けた。密集を突破する「らしさ」も見せたが、シュートは不発。ドロー発進に「責任を感じている」と力なく話した。

 準優勝した前回大会と同じく「不動」のエースだった。1試合の走行距離は7・6キロ。一般的なMFは10キロ以上だから少ないが、これは前回大会同様。動かないエースを周囲の運動量で支えるのがチームの特徴なのだ。前回大会は、それで決勝まで勝ち進んだ。

 06年ドイツ大会でW杯にデビューして以来、アルゼンチンの戦術は「メッシ」だった。80年代に活躍したマラドーナ同様、絶対的なエースとして君臨し、周囲はそれに合わせた。「依存症」という意味では、優勝した86年大会もマラドーナも同じ。ただ、今大会のアルゼンチンはメッシへの依存度があまりにも高い。

 攻撃陣の仕事はメッシにボールを渡した時点で終わり。「後はよろしく」と足を止めてしまう。任せられたメッシは自らドリブルでシュートまで持っていくしかない。「スペースがなかった」と話したのは、もっと味方に動いてスペースを作ってほしいからだ。

 マラドーナは自ら行くだけでなく、味方も使った。パスを出したチームメートは「神の子」のために走った。90年大会では1点も決めないままチームを準優勝へと導いた。それができなければ、メッシはマラドーナにはなれない。

 アイスランド戦と同じように一方的に攻めた前回大会のイラン戦、メッシのスプリントは26回だった。この日は17回。衰えは否めない。サンパオリ監督は「やり方は変えない。どんな相手にも勝てる力は持っている」と強気だが、このまま「依存」すれば、ナイジェリアやクロアチアに勝つのも容易ではない。優勝2回、準優勝3回と圧倒的な実績を持つ南米の雄だが、02年大会以来の1次リーグ敗退の危機が迫ってきた。

 ◆スプリント サッカーにおいては時速24キロ以上で走ること。0~2キロがウオーキング、2~14キロがジョギング、14~21キロがランニング、21~24キロがハイスピード、24キロ以上の全力疾走がスプリントとなる。