言葉にすれば何げない。前に行く、と見せかけて左に90度、直角に曲がる-。ただ、その急停止があまりにも鋭く、再加速の動きがよどみないから、モロッコのマーカーは手をだらりと下げてあきらめ、ボールを見送るしかなかった。

 前半4分、右からのショートコーナー。フリーになったポルトガルFWクリスティアノ・ロナウド(33)は頭から飛び込んだ。目で捕らえていたのはボールという名の「獲物」。逃しはしなかった。「目標を達成できて素晴らしい」。2試合で4得点。国際Aマッチは通算85得点で、並んでいたプスカシュを抜いて欧州選手で単独1位になった。一連の動きはまるで、地上最速の哺乳類として知られるチーターのようだった。

 なぜなら、その「足」は最速動物そのものだった。15年ほど愛用するナイキ社のスパイク「マーキュリアル」。今年2月に披露され、履き始めた相棒のモチーフは「チーターの足」-。

 チーターは獲物を仕留めるとき、直線の速さだけでなく、急停止と急転換を駆使する。秘密は、土をかんで爆発的な加速を生む前足のつめと、急停止を可能とする後ろ足のつめにある。これをデザイナーのジョンウー・リー氏らが解析して取り入れた。足裏のポイントを工夫し、前指とかかとの間の土踏まずの部分からプレートはなくした。靴下の感覚のように、より足になじませたことで同様な動作を可能にさせた。初めて履いたとき「完璧だ」と話していたロナルド。まさに、この動きのためだった。

 勝ち点3が欲しかったモロッコ戦で望み通りの初勝利を挙げた。厳しいマークを受けても、狙った獲物は逃さない。今大会のポルトガルの全得点を1人でたたき出す。この男を止めることが、果たしてできるのだろうか。