ワールドカップ(W杯)ロシア大会を16強で終えた日本代表の西野朗監督(63)が5日、成田市内で主将のMF長谷部誠(34)、日本サッカー協会の田嶋幸三会長(60)とともに帰国会見に臨んだ。西野監督は大会期間中の印象に残った選手とのやりとりを問われると、惨敗した14年W杯ブラジル大会からの思いを涙ながらにぶちまけた「小さい選手」の秘話を明かした。

 西野監督の声が上ずった。印象的な選手とのやりとりを聞かれると、しばらく考えて、隣の長谷部に「何があったっけ?」と、聞いたところまでは余裕があった。そして“その時”を思い返し、話しだした。

 西野監督 ある選手が、グループステージを突破した翌日のミーティングで、いきなり発言をして…、小さい選手なんですけど。ブラジルの話をしたかったんでしょうけど…、ブラジルって言葉をぱっと言った瞬間に、言葉を詰まらせたんですね。(後は)泣きじゃくりながら、何とかブラジルからの思いを…、何とか突破した翌日に、回想をしようとして(言葉に)詰まってしまった瞬間があったんですけど…。

 ブラジル大会に出場した選手で、小さいのは香川、長友と思われるが、その選手の号泣しながらの言葉にならない思いをくみ取った。ブラジル大会を知らない西野監督も、ただひたすらにあの屈辱を晴らそうとロシアにたどり着いた選手の胸の内に触れていた。

 1次リーグ突破を決めたのは、負けている残り10分で、時間稼ぎのボール回しを選択したいわくつきのポーランド戦だった。その翌日のミーテイングで、必死に思いを伝えようとした選手がいたからこそ、さらにチームは強く団結し、強豪ベルギーに立ち向かえた。エピソードを披露しているうちに、当時の感動が呼び起こされるのだろう。西野監督の声も多少震えている。

 そんな言葉にならない思いに接したからこそ、西野監督もあのベルギー戦のあとに言葉を贈っていた。

 西野監督 あのロストフの、あのベルギー戦終わった後の、倒れ込んで背中に感じた芝生の感触。それで見上げた空の色だか、感じだか。それは忘れるな。

 さらにベンチを守った控えの選手にも言った。

 西野監督 ベンチで座っていた選手たちの、あの居心地の悪い、ベンチのお尻の下の感触を忘れるな。

 戦い終えた監督らしく、ゆったりとした雰囲気の中、激闘続きのロシアを思い起こして、現場の長として大役にピリオドを打った。【井上真】