サッカー選手と野球選手の両方を取材すると、両者の競技に対する考え方の違いに出くわすことがある。

 あくまでプロ選手についての話だが、インタビュー中にその競技について「楽しい」「楽しみたい」などと答えるのは、圧倒的にサッカー選手の方が多いように感じる(筆者の取材経験の中での話だが)。

 逆にプロ野球選手に「野球が楽しいか?」と聞いたとき、「今は仕事ですから。昔のような楽しさはありません」という返事が返ってきたことは何度もある。

 どちらが正しいわけではないと思う。日本では野球の方が古くから行われており、歯を食いしばって頑張ることが美徳とされ「楽しみたい」などと言えば「手抜き」と受け取られてきた時代もあった。プロ野球選手が「楽しい」とあまり言わないのは、その名残なのかもしれない。

 ただ、スポーツがいつか自分の仕事になったとしても、今までどおり楽しいに越したことはない。もっと言えば、一流であればあるほど競技を楽しむ余裕も生まれるはずだ。

 今月開幕するW杯ロシア大会に出場するイングランド代表MFデレ・アリ(22=トットナム)も世界最高の舞台を楽しもうとしている1人だ。

 英テレグラフ紙(電子版)によると、アリはミルトンキーンズでの少年時代からストリートサッカーで足元の技術を磨いてきた。そのころから今にいたるまで、サッカーにおいては「楽しむことがすべて」という。

 子供のころから抜群のテクニックを誇り、股抜きなどで相手を出し抜くことも大好きだったアリ。そうすることで周囲を驚かせることが何より楽しかった。

 「みんながサッカーをエンジョイすることがとても大事。ファンも、次に何が起きるか分からない楽しさがあるからサッカーを見る。僕は人々を楽しませたいんだ。サッカーは自分にとって昔よりは真剣なものになっているけど、でも人々を魅了し、楽しませたいということは常に心の中にある」。

 対照的に日本のスポーツ界では、子供のころから勝ち負けだけが優先される傾向にある。もちろん勝利は大事だが、どんな手段を使ってでも勝つという姿勢が行きすぎると日大アメフット部の危険タックルのような事件につながる。

 アリのように自分が楽しみ、周囲を楽しませ、その上で勝利するという精神は、すべてのスポーツのおいて大事。日本のアスリートたちにもそういう考え方を持ってほしいと思う。

【千葉修宏】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「海外サッカーよもやま話」)