久保建英が昨年9月1日のバレンシア戦でマジョルカデビューを果たしてから、早くも5カ月以上が経過している。スペイン1部リーグ前半戦全19節の終わりを機に、さまざまな困難に立ち向かいながら大きな成長を遂げてきた久保の軌跡を振り返ってみる。

シーズン序盤の久保は、昨シーズンのメンバーをベースとしたビセンテ・モレノ監督のスタメン入りに苦しんだものの、ホームデビューとなった9月13日のビルバオ戦でいきなりPKを奪うパフォーマンスを披露して、マジョルカサポーターに自分の存在を認めさせると、続くヘタフェ戦ではブディミールのゴールをお膳立てし、初アシストを記録した。

そして久保にとって4試合目となった強豪アトレチコ・マドリード戦では、念願の初スタメンのチャンスを獲得。後半開始直後にシュートをポストに当て、4年連続サモラ賞(リーグ戦最少失点率GK賞)の名手オブラクを脅かしたのである。

着実にインパクトを与えていった久保は、期限付き移籍元であるレアル・マドリードと10月19日に対戦。この試合前の久保に対する注目度はスペインでも非常に大きなものとなった。国内最多の販売数を誇るスポーツ紙のマルカが試合前日の一面を久保に割き、独占インタビューを掲載したほどだった。

その後、バリャドリード戦から今年最初のグラナダ戦に至るまで、リーグ戦8試合に連続出場したことにより、入団当初頻繁に伝えられていた「ビセンテ・モレノ監督のスタメン構想に入る難しさ」を報じるメディアは、今はもう皆無となった。

実際に現地に赴き、ホームスタジアムのソン・モッシュで試合観戦をしていると、久保がボールに触れるたびにスアジアム中で起こるどよめきから、久保がマジョルカでなくてはならない存在となっていること、そしてその期待感を肌で感じられる。

さらに、今季最高と言える11月10日のビジャレアル戦で魅せたパフォーマンスは、久保のチーム内の地位を確定させるものとなった。ラゴ・ジュニオルの決めた1点目のPKを誘発し、ダニ・ロドリゲスの2点目のプレーに絡み、3点目は自らが決め、マジョルカ初得点を飾った。スペイン各紙は軒並み、チームを指揮した久保のプレーを大絶賛した。

そして12月7日のバルセロナ戦、久保にとって待望の瞬間が訪れる。少年時代に夢見たカンプ・ノウのピッチに初めて立ったのだ。バルササポーターは、久保がボールを触るたびに大ブーイングを浴びせた。これはわがチームのカンテラーノ(下部組織の選手)が最大のライバル、Rマドリードに奪われたことからくる悔しさ、そして久保の実力を認めてのものだと感じられた。

スペインメディアでの久保の評価は平均以上であることが多いが、12月15日のセルタ戦では今季最低とも言える評価を受け、痛烈に批判された。しかし、そのようなこともある。毎試合、完璧なプレーができる選手など存在しないのだから。

これまで久保はリーグ戦16試合、1046分間出場し、1得点1アシストを記録している。先発出場は10試合。攻撃面での数字に物足りなさを感じるかもしれない。しかし事実、数字に表れない数多くの決定機を演出し、インパクトを与えている。そしてそれはソン・モッシュの観衆のリアクションが全てを物語っている。

マジョルカでの5カ月の間には、控えに苦しんだ日々や数多くの勝てない試合、そして守備に苦しむ時間帯、代表戦参加による長距離移動など、さまざまな壁があった。そしてビッグクラブであるRマドリードやバルセロナ、Aマドリードなどとの対戦もあった。

世界中で活躍している同年代の日本人選手と比較しても、この5カ月間で久保ほど大きな経験を積んできた選手はいないのではないだろうか。この並外れた経験は久保を急速に成長させたはずだ。

久保は1月19日にマジョルカでの“原点”となったバレンシアと再び対戦する。まだ夏の暑さが残り「クボ」という名前に誰もが懐疑的だった中、後半34分にマジョルカデビューを果たしたあの瞬間から、いったいどれだけの進化を遂げているのか。もう間もなく1部リーグ後半戦がスタートする。【高橋智行】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)