すでに新シーズンに向けた準備が始まっているスペインでは、新型コロナウイルスの影響により、移籍期間が例年に比べ約1カ月ずれた8月4日から10月5日までと、特異な状況となっている。

全てのクラブが財政面に大ダメージを受けているため、昨夏、アトレティコ・マドリードがスペインの移籍金トップとなる1億2720万ユーロ(約159億円)を費やしてFWジョアン・フェリックスと契約し、バルセロナがFWグリーズマンを1億2000万ユーロ(約150億円)、レアル・マドリードがFWアザールを1億ユーロ(約125億円)で獲得したような、高額移籍はほぼないと予想されている。

そんな状況の中、オープンしたばかりの移籍市場で最も効果的な動きを見せているのは、昨季のリーグ戦を5位で終え、欧州リーグに挑むビリャレアルだろう。新監督にウナイ・エメリを迎え、MF久保建英、フランス人MFコクラン、MFパレホを立て続けに獲得し、MFカソルラなどが退団した中盤強化に成功している。

久保の期限付き移籍の手数料として250万ユーロ(約3億1250万円)、コクランの移籍金で650万ユーロ(約8億1250万円)プラス出来高ボーナス200万ユーロ(約2億5000万円)を投資し、パレホを無料で獲得した。

しかし、ビリャレアルは経営面が安定し、スポーツ面でも成果を出しているスペイン屈指のクラブであり、単に選手獲得に投資するだけで終わっていない。すでにFWウナルを900万ユーロ(約11億2500万円)プラス出来高ボーナス250万ユーロ(約3億1250万円)でヘタフェに、DFアルバロ・ゴンサレスを400万ユーロ(約5億円)でマルセイユに、FWアフィーフを100万ユーロ(約1億2500万円)でアルサッドにそれぞれ売却し、獲得費用を上回る収入を得ている。

昨夏も、選手獲得に2180万ユーロ(約27億2500万円)を費やした一方、選手売却で6350万ユーロ(約79億3750万円)を得ており、その収支はプラス4170万ユーロ(約52億1250万円)となっていた。

すでに中盤3枚を補強したばかりのビリャレアルだが、この後、退団の恐れがあるアンドレス・フェルナンデスに代わる第2GKおよびセンターバック、そしてモレーノとアルカセルを補完するセンターフォワードの獲得や、フルハムに戻ったMFアンギサが期限付き移籍で再びプレーする可能性が残されているとのこと。

しかし、その前に選手放出の仕事に取り組む必要があり、戦力外のDFペドラサ(昨季はベティスに期限付き移籍)や、年俸は高いがレギュラーではないDFモリやFWバッカに退団の可能性があるほか、エメリ監督がDFキンティジャーを期限付き移籍に出すことを検討しているという。

スペイン・ビッグ3の動向を見てみると、昨夏、アザールやFWヨヴィッチなどに約3億ユーロ(約375億円)を費やした王者Rマドリードは今夏、ベンゼマのバックアップとなるFW補強を求める声が挙がるも、財政面を考慮し、基本的には選手獲得に動かないと伝えられている。

放出に専念し、すでにDFハキミやDFハビ・サンチェスなどを売却、さらにジダン監督の戦力に入っていないMFハメス、FWベール、FWマリアーノや、FWマジョラル、DFレギロンなどの期限付き移籍選手などが放出候補に挙がる。また足りないポジションは、GKルニン、DFオドリオソラ、MFウーデゴール、MFセバージョスなどの期限付き移籍選手で補う予定である。

2位バルセロナはすでにMFピャニッチ、FWトリンコンなどと契約し、BチームのFWファティ、MFプッチ、DFアラウホの昇格が確定的となっている、そしてインテル・ミラノのアルゼンチン代表FWラウタロ・マルティネス獲得を今夏最大の目標に掲げているが、高額な移籍金が障害となり交渉は難航している。また、補強候補としてセンターバックのガルシア(マンチェスター・シティー)、右サイドバックのデスト(アヤックス)やダロト(マンチェスター・ユナイテッド)、左サイドバックのデ・シリオ(ユベントス)が挙がっている。

一方、すでにMFアルトゥールとMFアルダを放出したほか、GKネト、DFウムティティ、DFジュニオル、MFラキティッチ、MFコウチーニョ、FWデンベレ、FWブライトバイトなど、多くの選手が売却候補になっている。12年ぶりの無冠に終わり、監督解任が決定的なチームに対し、大改革が行われるかもしれない。

3位のAマドリードは今夏、ほとんど動きはないとみられている中、唯一補強が必要なポジションはアダンが退団した第2GKであり、アイトール・フェルナンデス(レバンテ)が候補に挙がる。また、大連一方からの期限付き移籍で今年1月に加入したMFカラスコの引き留めに努めている。【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)