アトレチコ・マドリードは、グラナダに6得点のゴールラッシュで圧勝し、20-21シーズンのスペイン1部リーグで上々のスタートを切ったが、2試合目のウエスカ戦はスコアレスドローに終わった。昨季付けられた不名誉な称号“El rey del empate(引き分けの王様)”を払拭(ふっしょく)できるか、が今季の成功に向けた大きな鍵となる。

昨夏、チームの主軸グリーズマン、ルーカス、ロドリゴがそれぞれ高額な移籍金でチームを離れ、さらに長年守備の中心だったゴディン、フアンフラン、フィリペ・ルイスのベテラン勢もそろって契約切れにより退団した。

これにより改革を迫られたチームは新時代のエースとして、ポルトガル代表FWジョアン・フェリックスをベンフィカ・リスボンから、クラブ史上ならびに昨夏のスペインの移籍金最高額となる1億2720万ユーロ(約159億円)で獲得。ジョアン・フェリックス、マルコス・ジョレンテ、エルモソ、トリッピアー、フェリペ、ロディ、シャポニッチ、エクトル・エレーラの8選手を補強するのに費やした金額は2億4470万ユーロ(約305億8750万円)と莫大(ばくだい)なものになった。

大型補強を敢行して臨んだ昨季のリーグ戦、Aマドリードの4敗、27失点はともに、リーグ王者レアル・マドリード(3敗、25失点)に次ぐリーグ2番目に素晴らしい数字だった。一方、16分け(全体の42%)はセルタと並びリーグ最多であり、アウェーゲームでは唯一の2桁台となる10分け(全体の53%)を記録した。そのために付けられたあだ名が“引き分けの王様”だった。

この引き分けの多さがたたり、リーグ戦を最終的に3位で終えたものの、シーズン中は順位を落とし、スペイン・トップ3の座を脅かされた。Aマドリードの勝ち切れない大きな原因に決定力不足が挙げられている。決めるべきところでゴールを決められず、昨季の総得点数は51だった。これはリーグ7番目の成績であり、リーグ優勝を目指すチームにとっては非常に物足りないものだった。

そんな状況でありながらも、Aマドリードは今夏、ほかの多くのクラブ同様、新型コロナウイルスの影響を財政面に受け、決定力不足を克服する補強をできないまま新シーズンを迎えるところだった。アダン、モラタ、アリアスが抜けた一方、リーグ初戦前までの新しい顔ぶれは、オブラクのバックアップのため移籍金700万ユーロ(約8億7500万円)で獲得したクロアチア代表GKグルビッチ、下部組織から昇格したU-21スペイン代表DFマヌ・サンチェス、期限付き移籍から戻ってきたU-23アルゼンチン代表DFネウエンのみと、大きな戦力の上積みにはなっていない。

そんな中、バルセロナのロナルド・クーマン新監督に戦力外通告を受けたウルグアイ代表FWルイス・スアレスが、移籍金ゼロ、出来高に応じて最高600万ユーロ(約7億5000万円)をバルセロナに支払うという契約内容でグラナダ戦2日前に入団した。

8月の欧州チャンピオンズリーグを戦ったAマドリードは、今季最初の2節が延期され、第3節からリーグ戦をスタート。暫定首位のグラナダとの初戦、スタメンの顔ぶれは昨季と全く変わらなかった。しかしキックオフから攻撃陣が機能し、ジエゴ・コスタ、コレア、ジョアン・フェリックス、マルコス・ジョレンテが次々とゴールを量産。さらにそれに止まらず、後半途中にAマドリードデビューを飾ったルイス・スアレスが急きょ加入したとは思えないほど馴染んだ動きを披露して2得点を追加し、6-1という近年稀に見る大勝利を収めたのである。

突然の大型FW入団と大勝利でAマドリードは今季に大きな期待を抱かせた。しかし続く中2日で行われた第4節、シメオネ監督はルイス・スアレスを初先発起用し、岡崎慎司が所属する昇格組のウエスカと対戦するも、堅固な守備を最後まで崩すことができずにスコアレスドローで終わり、またもや“引き分けの王様”を払拭できない結果となった。

シメオネはウエスカ戦後の会見で引き分けを指摘され、「昨シーズンと同じような引き分けではなかった。ゲームの均衡を崩すゴールを見つけられなかったので引き分けたが、我々はゴールを求めたし、爆発力を生んでいた。今までの引き分けとは異なっていたよ」と弁明。昨季のようにチャンスを作れなかった末の引き分けではなく、決定機は作るもゴールを決められなかっただけだということを主張した。

実際、Aマドリードはウエスカ戦で16本ものシュートを放ち、ホームチームのウエスカの9本を大きく上回った。しかし枠内シュートはわずか2本で、ウエスカの3本を下回ったため、今後大きな改善が必要となるだろう。

次節、再び中2日で久保建英が所属するビリャレアルとホームで対戦する。前節アラベスに3-1で快勝し、良い流れでやって来る相手との難しい一戦となるため、特に攻撃陣にとっては新たな試金石となるはずだ。Aマドリードが今季、成功を収めるためには決定力不足の克服および、引き分けからの脱却が最重要課題となる。【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)