ビリャレアルが優勝候補の一角であるバイエルン・ミュンヘンを破る番狂わせで、クラブ史上2回目となる、2005-06シーズン以来16季ぶりの欧州チャンピオンズリーグ(CL)準決勝進出を果たした。

その他に4強入りしたクラブはレアル・マドリード、そしてマンチェスター・シティーとリバプールのプレミアリーグ勢だが、クラブ規模を考えるとビリャレアルの躍進は特に際立つものとなっている。

準決勝進出を決め喜ぶビリャレアルの選手たち(AP)
準決勝進出を決め喜ぶビリャレアルの選手たち(AP)
ビリャレアルに敗れ、うつむくトーマス・ミュラー(右から2人目)らバイエルンの選手(ロイター)
ビリャレアルに敗れ、うつむくトーマス・ミュラー(右から2人目)らバイエルンの選手(ロイター)

例えば今冬の移籍市場終了後に発表されたスペインリーグのサラリーキャップ(選手の契約年数に合わせて分割された移籍金や選手年俸などの限度額)を見てみると、Rマドリードが7億3910万ユーロ(約997億7850万円)であるのに対し、ビリャレアルは1億4830万ユーロ(約200億2050万円)と約5分の1。

またプレミアリーグでは昨夏、マンチェスターCがイングランド代表MFグリーリッシュを同リーグ史上最高額の1億1175万ユーロ(約158億6250万円)で獲得するなど、コロナ禍にもかかわらず選手1人にビリャレアルのサラリーキャップに近い金額を費やせるほどの資金力があることをうかがわせていた。

実際、欧州5大リーグ(スペイン、イングランド、イタリア、ドイツ、フランス)の昨夏の移籍市場の補強総額は、プレミアリーグが13億3000万ユーロ(約1795億5000万円)と断トツ。これにセリエAが5億5194万ユーロ(約745億1190万円)、ブンデスリーガが4億1637万ユーロ(約562億995万円)、フランスリーグが3億5642万ユーロ(約481億1670万円)で続き、スペインリーグは2億9250万ユーロ(約394億8750万円)で最下位だった。

このように、国別、クラブ別のあらゆる経済的な競争力を考慮した場合、わずか5万人の町のクラブであるビリャレアルが、Rマドリードなどに交じり欧州CLで準決勝に進出したことがどれだけすごいかが分かるだろう。

ビリャレアルは以前より安定経営と選手育成に定評のあるクラブだが、近年成功の鍵はエメリ監督の手腕によるものが大きいと思われる。

19-20シーズンを5位で終えたビリャレアルは昨季、欧州CL出場を目指すべく、セビリア時代に欧州リーグ3連覇を達成し、国内外での経験が豊富なエメリを監督に招聘(しょうへい)した。

堅実なチームマネジメント能力を発揮した指揮官に率いられたチームは、引き分けが多く戦い方が保守的だと批判されたこともあり、国内リーグは7位で終わったものの、クラブ史上初の欧州リーグ優勝を成し遂げたことで今季の欧州CL出場権を獲得した。また、これはビリャレアルにとって初のビッグタイトルとなっている。

エメリ監督の大きな特徴のひとつは、久保建英が期限付き移籍で所属した昨季前半戦でも見せていた通り、国内リーグと欧州カップ戦で大幅にメンバーを入れ替えること。これは欧州CLでともに準決勝に進出しているRマドリードとは対照的な戦い方である。

アンチェロッティ監督があまりローテーションを行わず、少数精鋭のメンバーで勝ち上がってきたのに対し、エメリ監督は試合ごとにメンバーをリフレッシュし成功を収めている。

3月の国際Aマッチ期間で12人が各国代表に招集されたことでも分かるように、ビリャレアルはスペイン(14人)、アルゼンチン(3人)、フランス(2人)、オランダ、エクアドル、アルジェリア、コートジボワール、ナイジェリア、セネガル(各1人)の9カ国の選手たちで構成される多国籍軍団。エメリ監督はこれらの選手たちを適材適所に配置して勝ち進んできたのである。

特に「私にとって監督としての最大のチャレンジであり、このクラブにとっても最大のチャレンジとなる」と語ったバイエルン・ミュンヘンとの準々決勝では全力を尽くすため、ホーム&アウェーの合間のビルバオ戦でスタメン11人を総入れ替えした。これが功を奏し、ミュンヘンでの第2戦に万全の状態で臨むことができ、堅守速攻で前評判を覆した。

準決勝進出によりここまで、合計5760万ユーロ(約77億7600万円)もの賞金をクラブにもたらせている。

しかし、どうしてもRマドリードやマンチェスターC、リバプールなどのビッグクラブと比べると戦力が劣るため、ローテーションのつけが回り、国内リーグでの取りこぼしが目立つ。

特に最近は欧州CLが佳境に入っているため、降格圏のカディス、レバンテに連敗して順位を7位まで下げ、来季の欧州CL出場権内入りの可能性がほぼなくなっているが、それは選手のクオリティーの限界もあり致し方ないことだろう。

ビリャレアルは準決勝でリバプールと対戦する。アウェーの第1戦は4月27日、ホームの第2戦は5月3日に行われ、クラブがまだ一度も到達したことがない夢の決勝戦は5月28日にパリで開催される。

リバプールのクロップ監督が「ウナイ・エメリはカップ戦の王様だ。彼がやっていることは信じられないほどすごいことだよ」と語っていた通り、大会は違えどもエメリ監督は欧州リーグ4度の優勝を誇るカップ戦のスペシャリスト。そのためビリャレアルが今季どこまで躍進できるのか、まだまだ楽しみが残されている。

【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)

バイエルン・ミュンヘンを破って準決勝進出を決め喜ぶビリャレアルの選手たち(AP)
バイエルン・ミュンヘンを破って準決勝進出を決め喜ぶビリャレアルの選手たち(AP)