サッカー日本代表MF久保建英(21)がスペイン4年目となる今季(22-23年シーズン)、ついに完全移籍を決断した。

移籍先に選んだのは昨季のスペインリーグを6位で終え、欧州リーグ出場権を持つレアル・ソシエダード。下部組織出身選手が多く、ポゼッションサッカーを展開する守備の固いチームだ。各ポジションに個人能力に優れた選手がそろうも、昨季はエースのオヤルサバルの度重なるけがが大きく影響し、得点力不足に苦しんでいた。

久保建英(2022年6月14日撮影)
久保建英(2022年6月14日撮影)

久保は昨季、マジョルカに期限付き移籍で所属した後、保有元のレアル・マドリードへ戻りプレシーズン初日から参加。EU圏外枠の問題により4季連続の期限付き移籍が濃厚と言われていた中、かねてより久保を狙っていたRソシエダードが完全移籍を強く希望した。当初はRマドリードが期限付き移籍にこだわったことで交渉が難航したものの、最終的にはRソシエダードが望んだ形で合意に至ったようだ。

Rソシエダードは契約の詳細を明かしていない。スペイン紙アスによると、27年6月30日までの5年契約、年俸はRマドリードで今季受け取る予定だった金額と同じ、契約解除金は今夏加入したアリ・チョー、ブライス・メンデスと同じ6000万ユーロ(約84億円)。保有権に関しては当初報じられていた50%ではなく、全権利を600万ユーロ(約8億4000万円)で買い取ったとのことだ。

また、この契約に買い戻しオプションは付いておらず、Rマドリードは今後5年間の先買権のみ保有しているという。これはRソシエダードが将来、他のクラブから久保へのオファーを受けた場合、Rマドリードが優先的にその提示額と同じ金額で久保を買い取ることができるというものだ。

さらにRマドリードは、将来Rソシエダードが久保を他のクラブに売却した場合、キャピタルゲイン(購入価格と売却価格の差による収益)の50%を受け取る権利も保有しているという。

完全移籍したことで、期限付き移籍でプレーした過去3年間とは全く違う状況下で決意新たにスペイン4季目に挑む久保だが、これまでポジション争いの行方を左右する重要なプレシーズンに、最初から最後まで腰を据えて同じチームで参加できたことは1度しかなかった。

初年度(19-20年シーズン)はRマドリードの北米ツアーやBチームのカスティージャに参加し、マジョルカ移籍が決まったのはリーグ開幕後だった。大きく出遅れたこともありシーズン序盤はベンチスタートが続いたが、徐々に存在感を発揮していき、最終的にはチームの主軸にまで成長していった。

2年目(20-21年シーズン)は早々にビリャレアル行きを決めたため、唯一、同じチームでプレシーズン全日程に参加できた。プレシーズンマッチ全5試合に出場し、満を辞してリーグ開幕を迎えたものの、各国代表が揃う中での熾烈なポジション争いに直面。レギュラーの座を掴むことができず、冬の移籍市場でヘタフェに期限付き移籍した。

再びマジョルカ行きを決断した3年目(21-22年シーズン)は、東京五輪参加によりリーグ開幕直前の加入となったため、プレシーズンにほとんど参加できなかった。しかしすぐさまルイス・ガルシア監督(現アラベス指揮官)の信頼を勝ち取り、Rマドリード戦で全治2カ月のけがを負うまでレギュラーとしてプレー。復帰後も監督がアギーレに代わるまで先発として起用されていた。

スペイン4年目となる今季も移籍が決まるのに少し時間がかかり、Rソシエダードのプレシーズンに2週間近く遅れて合流した。イマノル・アルグアシル監督が4-3-3とダイヤモンド型の4-4-2を併用してテストを続ける中、久保はここまで3試合に出場し、さまざまなポジションで起用されている。

新天地デビューとなった日本代表DF板倉滉が所属するボルシアMG戦(ドイツ)では後半頭からピッチに入り、4-4-2のトップ下でプレー。味方の決定機を演出するシーンや、GKと1対1を迎え、あと1歩で決勝点というチャンスが見られた。

初の先発出場となったオサスナ戦では4-3-3の右ウイングでスタート。しかし15分が経過したところで右インサイドハーフにポジションを移すと、後半15分に交代するまで自由度の高いMFとしてピッチを縦横無尽に動き回り、積極的にドリブルを仕掛けてオサスナ守備陣を混乱させていた。

3戦目のボーンマス戦(イングランド)では後半19分から出場。再び4-3-3の右インサイドハーフに入り、オラサガスティとの素晴らしい連携からシュートを打つが、惜しくもDFに阻まれたシーンがあった。

随所に持ち味を発揮してきた久保のここまでのパフォーマンスについて、スペイン各紙はおおむね好意的に捉えている。ボーンマス戦でのボールロストが失点につながったことを指摘するメディアもあったが、それは相手の激しいプレスを受けたからであり、少々手厳しい意見に感じられた。

イマノル・アルグアシル監督がプレシーズン全ての試合でメンバーを大幅に入れ替え、さまざまな組み合わせをテストしているため、現時点でスタメン11人全員が確定しているとは言い難い。また、昨季から長期離脱中であるエースのオヤルサバルが予定されている10月以降に復帰した場合、メンバー編成に大きな影響を与えることになるだろう。

そんな中、スペイン紙マルカはリーグ開幕に向けたスタメンを一足早く予想している。GK=レミーロ、DF=エルストンド、パチェコ、ル・ノルマン、リコ、MF=シルバ、スビメンディ、ミケル・メリーノ、FW=ブライス・メンデス、イサク、アリ・チョーと、昨季も所属していたメンバーと新加入2人の名を挙げ、久保は入っていない。

8月14日に行われるリーグ初戦のカディス戦に向け、スタメン入りを目指す久保に残されたプレシーズンマッチは、5日午前開催のエイバル戦、同日夜に行われるビルバオ戦の2試合のみ。

例えばトップ下ならシルバ、右ウイングならブライス・メンデス、右インサイドハーフならミケル・メリーノといったように、ビリャレアル時代同様、各ポジションに強力なライバルが何人も存在するが、その厳しいレギュラー争いを勝ち抜き、現地紙の予想を裏切ってくれることを期待しつつ、新シーズン開幕を待ちわびている。【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)

久保建英(2020年6月13日撮影)
久保建英(2020年6月13日撮影)