19歳のMF佐藤龍之介が新加入したバレンシアは今夏のプレシーズンマッチ全日程を消化し、間もなく26-27年シーズンの長い戦いを開始する。
24年から地元出身のカルロス・コルベラン監督が指揮を執るバレンシアの目標は、長らく遠ざかっている「欧州カップ戦復帰」だが、そこに至るまでには大きな壁が立ちはだかっている。
■杜撰な経営危機により低迷
21世紀初頭にスペインリーグ2度の優勝を含む5タイトルを獲得し、欧州チャンピオンズリーグ(CL)決勝に進出するなどの栄華を極めたが、今はその面影がない。18-19年シーズンのリーグ戦を4位で終えて欧州CL出場権を獲得したのを最後に、それ以降の最高順位は9位と低迷し、欧州の舞台に立てていない。
チームの衰退は、14年に筆頭株主となったピーター・リム氏の指揮下の杜撰な経営により、長年にわたり経済的危機に見舞われていることに起因している。その結果、主力や生え抜きの選手を相次いで安値で売却しているが、投資を厳格に制限する方針を掲げていることで代わりとなる選手を満足に補強できていない。さらに、度重なる監督解任もあり、一貫性のあるチーム作りが不可能となったことが、今の戦力低下へとつながっている。
これにより放映権収入も激減し、欧州カップ戦出場権獲得が困難になり、さらに新スタジアム建設工事の長期中断(来夏開場予定)により損失が増加。全てが悪循環となり、現在の負債は7億ユーロ(約1295億円)を超えているとも言われており、常にクラブの資金繰りを圧迫している。
今夏もこの状況が変わらないままプレシーズンをスタートし、テストマッチ8試合の成績は3勝1分け4敗、11得点10失点。4敗は昇格組のラシン・サンタンデールと並び、スペインリーグ最多。しかも、欧州5大リーグの対戦相手がニューカッスル(1-2)だけだったことを考えると、この成績は大いに憂慮すべき事態である。
地元メディアはまた、プレー面に関して、クロスの対応の拙さやアタッキングサードでの攻撃の組み立ての少なさ、得点の多くが流れに関係ないプレーから生まれていたことなどを指摘し、シーズンが始まっていないにもかかわらず、「今季も残留争いに悩まされるではないか」とすでに不安を抱いている。
■7億超の獲得はサプライズ
チームのパフォーマンスの悪さに不満を持つ一方、佐藤龍之介に希望を見出した。財布の紐が堅いバレンシアが今夏ここまでで唯一移籍金を支払い、400万ユーロ(約7億4000万円)で佐藤を獲得したことは当初、“サプライズ”であり“大きな賭け”と報じられたが、その評価は数試合で一変した。
左サイドハーフや2トップの一角(セカンドトップ)で起用された佐藤は、前線のあらゆるゾーンに顔を出して攻撃の起点となり、スルーパスやシュートを狙い、デビュー戦でいきなりゴールを決め、存在感を感じさせた。
プレシーズンマッチの通算成績は、6試合出場2得点3アシストと、チームでも特にゴールに絡む選手となり、現地メディアはこぞって開幕スタメン当確と予想。クラブの地元紙「ラス・プロビンシアス」は、佐藤が2点目を決めたプレシーズンマッチ最後のエルクレス戦後、「試合を観戦するためにチケット代を払う価値がある選手の1人」、「現在のバレンシアにおいて、まるで砂漠の真ん中に冷たく清らかな泉があるようなもの」と、すでにコルベラン監督にとって不可欠な存在であることを強調した。
バレンシアは佐藤をBチームに登録しつつ、トップチームの選手として活動させるつもりだ。その手続きに時間がかかり、現時点で登録が完了していないが、22日にホームで開催される初戦のセルタ戦には間に合う見込みである。
クラブはスペインリーグの定めるサラリーキャップ(選手の契約年数に合わせて分割された移籍金や選手年俸などの限度額)に加え、それよりも厳しいピーター・リム氏の投資制限がある中、退団した選手の穴を埋めるため、さらにオランダ人DFデ・ハース、マリ代表MFディエングをフリーで獲得し、主力のGKディミトリエフスキとMFギド・ロドリゲスと契約延長した。
それでもサポーターは今季のチームを信じきれていないという。それにはまだ補強すべきポジションがいくつもあるからだ。補強が不可欠の右サイドバックは、スペイン人DFアルナウ・マルティネス(ジローナ)が候補に挙がる。
主力のディエゴ・ロペスが来年まで離脱するウイングも手薄なポジションとなっている。そのため、昨季期限付き移籍で所属したベルギー人FWラマザニ(リーズ)や、今夏のワールドカップに出場したスウェーデン代表FWベルンハルドソン(ホルシュタイン・キール/ドイツ2部)の名前が報じられている。
■5バック布陣で開幕へ準備
いずれにしても、バレンシアはセルタとのスペインリーグ初戦に向け、プレシーズンマッチのニューカッスル戦と同じシステム(5-3-2)、この一戦に限りなく近いスタメンで臨むとの見方が強い。
コルベラン監督はこれまで基本的に4バックで戦ってきたが、今夏のプレシーズンマッチ最後の3試合では5バックを採用した。これは負傷中のフルキエが復帰に向けて調整中の右サイドバック不足を補い、守備力をより高めることを目的とした戦術的変更だが、ディエゴ・ロペスやリオハといったウインガーの負傷も大きな理由になっているようだ。
ニューカッスル戦の先発メンバーは、GK=ディミトリエフスキ、DF=ヘスス・バスケス、タレガ、ペペル、デ・ハース、ガヤ、MF=ウグリニッチ、ギド・ロドリゲス、ハビ・ゲラ、FW=佐藤、ウーゴ・ドゥーロ。人材不足をカバーするため、左サイドバックのヘスス・バスケスが右ウイングバック、MFのペペルがセンターバックに入っている。
また、この中でパフォーマンスの低下が目立つガヤ、決定力不足のウーゴ・ドゥーロが懸念材料となっており、ガモン(※右サイドに入り、ヘスス・バスケスが左サイドに戻る)やサディクにそれぞれポジションを奪われる可能性がある。
登録手続きに問題がなければ、佐藤にスペインリーグデビューの瞬間が訪れるのは間違いなさそうだ。19歳の若者がスペインの地でどのように躍動するのか、大いに期待したい。
【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行)


