U-20ワールドカップ(W杯)アルゼンチン大会の日本代表に、過去最多の4人の海外組が召集されるなど、高校卒業と同時に渡欧する選手が頭角を現している。10代の選手が海外で成功するために必要なことは-。オーストリア・ブンデスリーガ2部のSKNザンクト・ペルテンのテクニカルダイレクターで、欧州サッカーに精通するモラス雅輝氏(44)に聞いてみた。【取材・岩田千代巳】

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日本の選手が、欧州で成功するために必要なこととして、モラス氏はまず「語学」を挙げる。「現地で働きたいなら、現地の言葉を学び、プロを目指すなら少なくとも英語はできるようにしよう、というのは言いたい」。

京都ユース出身の財前淳(23)は現在、オーストリア・ブンデスリーガ2部でプレーしている。財前は、高校時代からドイツでのプレーを夢見てドイツ語を勉強していた。オーストリア・ブンデスリーガ2部のFCヴァッカー・インスブルックからでプロ生活をスタートさせたが、加入の決め手になった1つが、財前の人間性と、本気で語学を勉強した熱意と準備の姿勢だった。セルティックで成功したFW古橋亨梧、ブライトンMF三笘薫も語学が堪能だ。

一方で、語学ができずに消えていく逸材も数しれない。モラス氏は「語学ができないことで変な誤解が生まれて解決できない、誤解によって生まれた不信感がどんどん広がって、チームメートから信頼されない…。悪循環に陥ります。高校生が欧州に行くにしても、ドイツ語はできないと思う。でも、日常会話ぐらいの英語だけは身に付けておこうよ、と思います。海外で日本語は通じない。だから、英語をやろうよと。声を大にして伝えたい」と強調する。

現在のA代表の海外組は全員、Jリーグを経由して欧州へ旅立った。一方で、U-20W杯アルゼンチン大会の日本代表FW福田師王(19=ボルシアMG)、DFチェイス・アンリ(19=シュツットガルト)はJクラブを経ず、欧州に挑戦。Jクラブを経るべきか、いち早く渡欧して飛び込むべきか。モラス氏はこう語る。

「日本側の考えとして、Jリーグで体をつくってから行った方がいい、という気持ちも分かる。でも、日本のサッカー哲学に染まって、後々に欧州の現地に合わせなくてはいけないぐらいだったら、染まる前に18歳で欧州に行け、という意見があるのも分かる。最終的には、選手のパーソナリティーで決まると思う。現地で、欧州で戦うだけの人間性を素早く身に付けるのか、サッカー選手としての土台をJでつくるのか。いろんな考えがあるし、どっちが正しい、間違いということはないと思います。選手の性格次第」。

海外移籍も「新時代」に入った。今後、福田やチェイス・アンリが欧州でどんな進化を遂げるのか。26年のW杯(米国、カナダ、メキシコの3カ国共催)で、どんな経歴の海外組が数を占めるのか、目が離せない。(おわり)

◆モラス雅輝(まさき) 1979年(昭54)1月8日、東京生まれ。16歳でドイツへ留学。ドイツの指導者・クリストフ・ダウム氏に出会い、18歳で指導者の道へ。オーストリアサッカー協会のコーチングライセンスを保持。男女のトップチームや育成年代を指導。09年1月から10年まで浦和のコーチ、19年6月から神戸コーチ。21年からは再びオーストリアに戻り、22年8月にSKNザンクト・ペルテンのテクニカルダイレクターに就任。英語、ドイツ語が堪能。