陸上女子100メートルで金メダルの有力候補と期待されたシャカリ・リチャードソン(21=米国)が、大麻を使用して東京オリンピック(五輪)への出場を禁じられたことを受け、スポーツ界のみならずエンターテインメント業界や政界からも処分は不当だとする批判の声が上がっている。

リチャードソンはオレゴン州で先月行われた米国代表選考会で10秒86をマークして優勝し、五輪出場が決まったが、薬物検査で大麻の陽性反応が出たため1カ月の資格停止処分を受けた。これによって100メートルでの勝利は無効となり、五輪出場も夢と消えた。

リチャードソンは2日、米NBCテレビの情報番組トゥデイにリモート出演し、選考会の2日前に1週間前に実の母が亡くなったことを取材記者から聞かされて知り、ショックからつらい気持ちを紛らわすために大麻を使用してしまったと告白。「自分の行動に責任を持ちたい。自分が何をしたのか知っているし、何をすべきか、何をしてはいけないかを知っている。それでもその決断を下した。言い訳はしない。共感も求めていません」と語った。

この告白を受け、SNSでは「大麻に運動能力を高める効果はない」との声や「合法である大麻を使用して五輪出場資格を奪うのは差別だ」との批判が殺到しており、3度の五輪で4個の金メダルを獲得している元短距離選手のマイケル・ジョンソンら多くのアスリートがリチャードの支持を表明。また、ハリウッド俳優セス・ローゲンやジョージ・タケイ、さらに政治家ら著名人も資格停止に疑問を呈する騒動に発展している。

開催地のオレゴン州では嗜好(しこう)用大麻は合法で使用が認められているため、ナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグで活躍するシドニー・ルルーは、「(医療用麻薬の鎮痛薬)オピオイドが合法なら大麻の使用も同様に認められるべき」とツイート。ジョンソンも「なぜ大麻が禁止なのか分からない。両親を亡くすることはどんな気持ちか分かる。とてもつらい。理由を知らずに資格停止にするのは、ばかげている」と投稿している。また、NFLのスター、リチャード・シャーマンは、「この若者をとても誇りに思うと同時に、私たちが社会として存在している場所について不満を感じている。(五輪出場という)難しい偉業を成し遂げようとしていると時に誰もが対処しなければならない可能性のある肉親を失う悲しみに直面していた」とシャーマンの気持ちをおもんぱかった。

一方、ローゲンは、大麻が問題のある薬物だとする概念は人種差別に根付くものだと批判。「ヘイトに基づいて米国チームがこの国で最も才能ある選手から資格を剥奪するなんて狂っている。恥ずべきだ」と処分の不当を訴えると同時に「大麻で足が速くなるなら俺はフロージョー(200メートルの世界記録保持者フローレンス・グリフィス=ジョイナー)になっている」と禁止の理由への疑問も呈した。

「自分の感情の制御や対処の方法を知らなかったことをおわびする。皆さんを失望させてしまった」とし、ファンや家族、スポンサーに謝罪したリチャードソンは、400メートルリレーには出場できる可能性はまだあるが、そのためには全米陸上競技連盟から代表に選ばれ、米オリンピック委員会の承認を受ける必要があるという。(ロサンゼルス=千歳香奈子通信員)