<陸上:日本選手権>◇2日目◇9日◇大阪・長居陸上競技場

 史上最強女子高生スプリンターが、初の五輪出場を大きく近づけた。女子100メートルでは、土井杏南(あんな、埼玉栄高2年)が福島千里(23=北海道ハイテクAC)を追い詰めた。得意のスタートから飛び出して終盤までトップを快走。最後こそ「アジアの女王」に逆転されたが、11秒51で2位に入った。ロンドン五輪は400メートルリレーでのメンバー選出が濃厚で、出場すれば陸上では戦後最年少となる16歳での夢舞台へ、キラキラと目を輝かせた。

 もしや、と思わせた。「最速女王決戦」で、高校2年生の土井が名脇役になった。スタートから勢いよく飛び出して大きくリード。70メートル付近まで、先頭で月夜の生ぬるい風を切った。「全然覚えていないんです。無心だったので。(福島も)分からなかった」。最後こそ女王に屈したが、スタンドからは大きな拍手が沸き起こった。

 前日8日は追い風参考ながら11秒47で予選トップ通過した。「スタートが浮く感じだったけど、今日はうまくできた。自分の走りができました」。3月に代表短距離合宿に参加してから急成長。4月に高校新、5月にはジュニア新記録を塗り替えた成長株が、無敵の福島まで追い詰めた。

 歴史も塗り替える。100メートルのベスト11秒43はB標準(11秒38)に届かないため、個人種目での五輪出場はない。だが、今大会での快走で400メートルリレーのメンバー入りが濃厚になった。競技が行われる8月10日は16歳11カ月17日。陸上では歴代6番目、戦後最年少での出場になる。「五輪」の言葉を聞くと「はい、頑張ります!」と声を弾ませた。

 開幕前日には「(AKB48の)大島優子ちゃんになれれば」と宣言した。“センター取り”こそ実現できなかったが、AKB総選挙2位の渡辺麻友に負けない躍進ぶりだ。「修学旅行は2月だし大丈夫。8月は誕生日もあるし、楽しみなんです」。ニコニコと真夏の夢舞台に思いをはせながらも、最後につぶやいた。「上には強い選手がいた。う~ん、やっぱり悔しいので、もっともっと強くなりたいですね」。勢いが止まらない16歳には、2カ月あれば十分だ。【近間康隆】

 ◆陸上の五輪年少出場

 歴代最年少は32年ロサンゼルス大会で女子100メートルと400メートルリレーに出場した渡辺すみ子(名古屋高女)。15歳8カ月4日で100メートルを走った。同大会には女子100メートルの柴田タカ(山形二高女)と女子走り高跳びの広橋百合子(羽咋高女)も16歳で出場。戦後では、92年バルセロナ大会の女子10キロ競歩に出た板倉美紀(寺井高)が17歳0カ月2日で最年少。<土井杏南アラカルト>

 ◆生まれ

 1995年(平7)8月24日、埼玉県朝霞市。

 ◆陸上競技7年目

 小学5年から「新座陸協」で陸上を始め、朝霞一中では全国中学体育大会で100メートル2連覇した。

 ◆先輩超え

 中2で11秒89の中学新記録をマークし、翌年に11秒61まで伸ばした。今年2月には女子60メートルで7秒40の当時日本タイ記録。4月の織田記念では11秒50で、埼玉栄の先輩でもある高橋萌木子(富士通)が06年につくった高校新記録を塗り替えた。5月には日本歴代7位の11秒43でジュニア(20歳以下)日本新記録も樹立した。

 ◆ボルトイズム

 昨年12月からはウサイン・ボルト(ジャマイカ)の走りを参考に骨盤トレーニングを開始。得意はスタートで、埼玉栄の清田監督は「体幹」「足の回転」と「気持ち」を強さに挙げる。「ヒントを与えるとすぐに吸収する。強い意志と前向きな姿勢が武器」。

 ◆からだ

 158センチ、48キロ。血液型はO。