最近、女性の体のことや、社会におけるジェンダーのことなど、さまざまな場所で女性の話をさせていただく機会が多い。先日も女性の健康や生き方・働き方をエンパワーメントしていくプロジェクト「Ladyknows(レディーノーズ)」のイベントに参加した。

時代は変わってきた。そう思う。働き方改革や女性の社会進出など、女性の活躍は輝かしい。しかし、世界経済フォーラムが発表した男女格差を表す「ジェンダーギャップ指数」を見ると、日本は153カ国中121位(2019年12月17日発表)。そんな背景もあり今回は女性をテーマに書いてみたい。


私の現役時代(2001年から2012年)の話をしたいと思う。最初のころは、いろんなことに無知だった。インターネットもないし、SNSもない。情報は限られたツールからだけだった。海外の友達とはFAXや手紙でやりとりしていた。そんな時代だった。

情報が限定された時代は、良い点もあれば、良くない点もあった。


高校1年から寮生活をしていた。年齢の一番近い選手は大学1年の先輩という環境だった。私自身、夢と希望にあふれていたし、自分が女性とか若いとか、あまり気にしていなかった。


初めて日本代表になったときは、高校2年だった。2001年の日本選手権で2位に入り、世界選手権の代表に選ばれた。“女子高生スイマー”として雑誌や新聞に大きく取り上げられた。

私には少し違和感があった。日本で1番になってもいないのに、どうしてこんなに取り上げられるのか。もちろんうれしい気持ちもある。取材されることも刺激だった。

ただどこかで、「実力がないのになんで?」そう思っていた。でも褒められたい気持ちもあった。そんな違和感も厳しい練習を重ね、結果が出てくると薄れていった。

しかし、いつも自分の気持ちを左右するものに悩まされていたのだ。

それは、月経だった。

当たり前のように月に1回女性に訪れるものだ。この「当たり前」の感覚が、つらい気持ちやしんどい気持ちを伝えなくてもいいかという思いに至ってしまう。女性の先輩たちも普通にその日を迎え練習をこなしていた。


2008年、北京オリンピックの代表に選ばれた。人生で初めてのオリンピックだった。4年間、この時のために練習をしてきた。

しかし、どうやらオリンピックが決まってから計算をすると、大会期間中に月経が重なることが分かった。

コーチやドクターと相談してピルを使用することを決めた。その時だけ使用するというもの。私も「これがベスト!」と思ったし、ピルのことをそこまで知らなかった。そうしたら、副作用で体重が3キロ増加し、ニキビがでた。泳ぎの感覚が変わった。苦しい経験だった。


だが、その後に分かった。ピルが悪いわけではなかった。このことを知ったときは衝撃だった。「大丈夫なの?」

当時から海外のスイマーの友達は「なんでピル飲まないの?」と驚いていた。

現在はさまざまな種類のピルが存在し、低用量ピルもある。私は大学院時代には不正出血に悩んだこともあり、きちんと病院の先生にピルの効果、いろんな説明を受けて使用し、ストレスがなかった。

「現役時代に知っていたらな」。家に帰って思ったのを今でも覚えている。


北京オリンピックのときは、ピルを使用したことがいけなかったのではなく、その時まで知識がなかったことがいけなかった。もっと前から知っていることが大事だった。

月経前症候群(PMS)や、月経前不快気分障害(PMDD)の存在も、あとから知った。また、オーバーワークによる無月経。摂食障害。その先には疲労骨折や、骨粗しょう症などのリスクがあること。19歳の時に体重が増加して焦ったことを思い出す。


未来で女性がさらに輝ける社会になってほしいと思う。そのためには体を理解することだ。知らなくていいことではない。知る機会が増えてほしい。無知であるがために私のような経験をすることは避けられる。相談できる場所が身近にあるといいなと思う。女性自身もカラダのことを知っていくことが、大切なことであると思う。


女性アスリート、女性がまたさらにエネルギッシュになっていく未来を心から祈っている。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)