日本勢が予選から活躍したスノーボードのビッグエア。それにしても、テレビの映像は異様だった。雪山ではなく北京市内。周囲は元製鋼所で、廃炉となった溶鉱炉や冷却塔がそびえたち、高さ60メートルあるジャンプ台の眼下には、どこにでもある工業地帯が広がる。

スタートする選手の背後からの映像を見ると「どんな気持ちなんだろう」と考える。空中に飛び出して男子なら5回転、女子でも3回転は回る。少し間違えば大けが、いや命にさえかかわる。20歳前後の選手たちの精神状態は、いったいどうなっているのだろう。

スポーツの世界で大一番を前に「落ち着いて」「平常心で」というのは、よく聞く。しかし、エクストリームスポーツと呼ばれるスノーボード、特に危険を覚悟で一発の大技を争うビッグエアは少し違うようだ。

ビッグエアで自律神経活動と競技成績の関係を調査したのは、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の柏野多様脳特別研究室。興奮時に優位になる「交感神経」とリラックスした時などに働く「副交感神経」を調べたデータがある。参加したのは、北京五輪代表を含む国内トップ選手。公開練習前、予選前、決勝前に著しい変化があった。

場面がシビアになるほど副交感神経活動が減少し、交感神経活動が優位になった。さらに、交感神経の優位性が高い選手ほど、パフォーマンスが向上して競技成績がいいことも分かった。心拍数も決勝へ進むにつれて増えていた。

調査した同研究室の松村聖司氏は「スポーツによっても違いますが、エクストリーム系の場合はリラックスするよりも興奮した方が良さそうです」と説明。「トップアスリートの心理生理状態を科学的に解明してパフォーマンス向上につなげることは、競技者だけでなく愛好者にも価値があると思います」と話した。

ハーフパイプ男子金メダルの平野歩夢は、決勝2回目に得点を抑えられたことに怒り、3回目の高得点で逆転。「怒りをエネルギーに変えた」と話した。怒りで交感神経活動の優位性が増したことでパフォーマンスが向上したということも、この研究結果を裏付ける。

予選から実力を発揮し、15日の決勝に挑む日本スノーボード陣。緊張し、興奮し、心拍数を高め…、交感神経のアクセルをさらに踏み込むことが、メダルへのカギを握る。【荻島弘一】

(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)

スノーボード女子ビッグエア1回目の競技に臨む鬼塚(撮影・足立雅史)
スノーボード女子ビッグエア1回目の競技に臨む鬼塚(撮影・足立雅史)
スノーボード女子ビッグエア3回目で製鋼所跡地を背にエアを見せる岩渕(撮影・足立雅史)
スノーボード女子ビッグエア3回目で製鋼所跡地を背にエアを見せる岩渕(撮影・足立雅史)