25年間の現役生活の中で数多くの指導法(コーチング)に接してきた。

大学時代から、10年間指導していただいた藤森善弘コーチの指導スタイルで私が感じたことを書きたい。

藤森善弘コーチはシドニーオリンピックで田島寧子さんを銀メダリストに育てた偉大なコーチだ。

コーチングスタイルを一言で表すと『徹底』だ。ドライランド、水中練習、ストレッチ、ウエートトレーニングの全ての項目で細かく注意するポイントが決まっている。ある一定の基準があり「できている」「できていない」が、選手にわかりやすく示される。例えば、水中練習では制限タイムが設定されており、そのタイムを0・1秒でもオーバーしないよう取り組むようになっている。

この厳しいように見える制限タイムの練習だが、やり切ることや、そのタイムへの執着心が養われる。0・1秒への追求ができる貪欲さを身につけることもできたと感じている。

実際に私は2016年のリオオリンピック代表選考会では派遣標準記録を0・2秒切って代表権を獲得。周りには『危ない・・・』と思わせるほど、ギリギリの突破だった。

今思えば、このように、普段から少し厳しい設定タイムがあることで、レースでの「惜しかった」「あと少しタイムが足りない・・・」といったことを防止していたのだと感じる。

自分は人よりたけた武器が、特別あるわけではない。そんな選手を強くするためにはまず何が大事か。それは練習量であると思う。ただ、たくさん量を泳げばいいというわけではないが、トータル距離、練習の回数を多くするといった点は避けては通れない。

なぜならば、速い選手をつくるためには、まず強い選手を育成しなければならないと考えるからだ。

強い選手とは、体が丈夫で心も体もタフなこと。

きつい練習量、厳しい設定タイムなどに耐えることが、試合での緊張、日々の生活でのストレスに強くなり、速く泳ぐことにもつながる。要するに戦える選手になるということだ。そのポイントを徹底して指導することが、オリンピック選手を多数輩出するコーチングなのだと、指導者になってみて、身に染みている。

選手時代は、指導者から厳しく要求されることに対して憂鬱になって、落ち込むことが多かった。しかし今、立場が変わり、練習をやらせる側、要求する側もきついということがわかった。

現役時代の経験をいかしながら、いかに選手たちに、自分の考えや思いが届くか。試行錯誤していきたい。


◆清水咲子(しみず・さきこ)1992年(平4)4月20日、栃木県生まれ。作新学院高-日体大-ミキハウス。本職は400メートル個人メドレー。14年日本選手権初優勝。16年リオデジャネイロ五輪は準決勝で日本新の4分34秒66をマーク。決勝に進出して8位入賞。17年世界選手権は5位に入った。21年4月の日本選手権をもって現役引退した。今後はトップ選手を育てる指導者を目指し、4月からは日体大大学院に進学。同時に水泳部競泳ブロック監督も務める。

日体大の学生を指導する清水咲子新監督
日体大の学生を指導する清水咲子新監督
日体大の学生を指導する清水咲子新監督
日体大の学生を指導する清水咲子新監督
日体大の学生を指導する清水咲子新監督
日体大の学生を指導する清水咲子新監督