「上野の413球」から丸10年となる今夏、ソフトボールの女子日本代表が、重要な世界選手権(8月2日開幕、千葉・ZOZOマリンスタジアムなど)に臨む。

 ソフトボールは、日本が金メダルを獲得した08年北京五輪を最後に正式競技から外れてきたが、20年東京大会で追加種目として五輪に復帰する。今回の世界大会はその「前哨戦」と位置づけられ、最大のライバル米国も、国内のプロリーグ所属選手が代表に戻ってくるなど、本番を意識した真剣勝負が期待される。

 東京五輪まで、残り2年。世界のライバル国に日本の強さを見せつけておきたいのはもちろんだが、大会を通じての課題もある。今も絶対的エースとして君臨する上野由岐子(35)に続く投手の育成だ。宇津木麗華監督は、16日に開かれた代表発表会見で「上野の次のエース、1試合を投げきれる選手をどう育てるか。上野がいるうちに、若い選手を成長させたい」と強い口調で思いを語った。

 「世界の上野」も35歳。だがベテランとなった現在も、その力は頭一つ抜けている。直球の球速は、日本のトップ選手の平均が105キロ程度なのに対し、115キロ。昨季の日本リーグでも、最多勝(13勝0敗)、最優秀投手賞(防御率0・56)と投手部門のタイトルを独占した。

 世界を知る右腕は、自身に続く後輩について聞かれると、「もちろん勝ちにいくが、伝えないといけないもの、残さないといけないものもある。どの国も五輪を意識して入ってくるし、日本リーグとは違う対応力も問われる。若い選手は打たれてなんぼ。いろんなことを感じて欲しい」と力を込めた。

 上野のほかにメンバー入りした投手は3人。非凡な打撃センスと高い身体能力を持つ「二刀流」の藤田倭(27)、球のキレ、コントロールで勝負する浜村ゆかり(22)、昨季高校生で代表入りし、「大器」の呼び声高い勝股美咲(18)と、いずれも才能豊かな選手がそろっており、高いレベルの国際舞台を経験することで、大化けする可能性も十分にある。

 北京五輪後、日本のソフトボール選手を取り巻く環境は大きく変わった。五輪競技から外れたことで、年間を通した代表の強化合宿が組めず、国際大会前に短期間で集まる程度だった。だが、五輪復帰が決まり、17年度は年間150日以上も国内外で合宿を行い、16年11月に就任した宇津木監督のもとで激しい練習を続けてきた。

 今回の世界選手権の代表17人で北京五輪を経験しているのは上野と野手の要の山田恵里(34)の2人のみ。日本協会の矢端信介強化副部長は「自国開催のプレッシャーを経験する意味でも、この大会は五輪の試金石になる。上野たちの経験を吸収することで20年につなげてほしい」とチームの底上げを期待した。

 「あの世界選手権があったから五輪で金メダルが取れたという大会にしたい」と上野。育成と強化-。ソフトジャパンの夏に注目したい。【奥山将志】


 ◆上野の413球 北京五輪の準決勝米国戦、同日に行われた決勝進出決定戦オーストラリア戦をいずれも延長完投。米国との再戦となった翌日の決勝でも7回完投勝利。計413球の熱投で金メダルをもぎとった。「上野の413球」は同年の流行語大賞で審査員特別賞を受賞した。

北京五輪ソフトボール表彰 金メダルを決め米国、オーストラリアのチームと笑顔で記念撮影する上野由岐子ら(2008年8月21日撮影)
北京五輪ソフトボール表彰 金メダルを決め米国、オーストラリアのチームと笑顔で記念撮影する上野由岐子ら(2008年8月21日撮影)