平山姫里有さん(左)と立野在さん①

メディア露出増「何それ?」から「あ~!」に

平山姫里有さん(左)と立野在さん⑥

22年北京五輪のプレシーズンである今季、フィギュアスケートのアイスダンスを取り巻く環境は大きく変わった。岡山で競技に取り組み、リンク外ではカフェでアルバイトに励む、平山姫里有(きりあ、21=倉敷FSC)の口調が弾んだ。

「見られる目がすごく変わりました。『アイスダンスをしています』って言ったら『何それ?』と言われていたのに、最近は『あ~!』という反応。バイトでは知らない人にも『高橋大輔の!』と言われました」

男子シングル元世界王者の高橋大輔(34=関大KFSC)がアイスダンス転向-。その挑戦が及ぼす影響は大きかった。春から平山とカップルを組む立野在(ある、23=倉敷FSC)も、変化を感じ取っていた。

「これまでと違う視線があります。高橋選手の存在で、皆さんに見てもらえる。メディア露出が増えたり、見る人が増えています」

憧れの大先輩と競技者として順位を争う全日本

不思議な巡り合わせがあった。立野は中2だった11年、フランスのリヨンを拠点としていた。その夏、普段通りにリンクへ向かうと、そこに高橋がいた。同じ場所でアイスダンスに取り組む平井絵己さん(34)に思わず「なんでここにいるん?」と聞くほど驚いた。

立野在さん②

右膝に埋め込んでいたボルトを3カ月前に除去した高橋は、リヨンにスケートの基礎を学びに来た。アイスダンスのコーチに指導を受け、2週間ほど滑りを磨いていた。立野は同行していた母、平井さん、高橋と食事をする機会があった。

「多分、高橋選手は覚えていないです。僕はあの夏に初めて(生で高橋の)演技を見ました。その時にステップを見て『すごいなあ…』と思った記憶があります」

一方、平山にとっての高橋は、同じ倉敷FSCを巣立った憧れの先輩だった。10年バンクーバー五輪で日本男子初の銅メダルを獲得した高橋が、倉敷を訪れたことがあった。当時小学校高学年だった平山は、鮮明な記憶を笑顔で明かした。

「倉敷FSCのみんなにバンクーバー五輪のメダルをかけさせてくれました。私ももちろんかけました」

そんな大先輩が今季、アイスダンスの世界にやってきた。日本におけるアイスダンスの普及、発展に向け、これまでにない追い風が吹いている。25日開幕の全日本選手権(長野)では、競技者として順位を争う。

平山姫里有さん(左)と立野在さん⑤

初めて臨む日本最高峰の舞台で、平山、立野組が楽しませるポイントは「世界観の対比」。リズムダンス(RD)はコミカルな「スイート・チャリティー」、フリーダンス(FD)ではコンテンポラリーな振り付けで「エクソジェネシス交響曲第3部」を演じる。平山は特徴をアピールした。

「個性強めなRDと、大人な曲のFD。皆さんに『(結成)1年目なん!?』と思ってもらえるような、演技をしたいです」

1人では不可能なことが、2人なら表現できる

誓い合う22年北京五輪出場へ、残された時間は限られる。立野の鼻息は荒い。

「全部が北京に対する布石です。優勝はいつでも狙うところ。あとは認知ですよね。世間の方々に『我々もいるぞ』と認知してもらう。今は1年目で“2人の味”は模索中です。来季はそれが明確になっていくと思うので、そんな成長過程も見ていただきたいです」

平山姫里有さん(左)と立野在さん④

全日本選手権へエントリーしたカップルは5組。選手が切磋琢磨(せっさたくま)し、競技を通じて魅力を伝えることが、日本アイスダンスの発展に必要だ。

世に広めたい「アイスダンスの魅力」とは-。

立野は迷わずに答えた。

「やっぱり『2人で表現する』ことです。1人では不可能なことが、2人でできます。アイスダンスを日本で普及させたい、なじませたいという思いは、ずっと持ち続けています」

滑る軌道、膝を曲げる角度…。過去の歩みが異なった2人は、数多くの要素でズレがあった。春から1つ1つの動きに向き合い、繰り返し、すりあわせて、同調性を高めた。この作業に終わりはない。平山は「2人の強み」をかみしめた。

平山姫里有さん(左)と立野在さん③

「互いにいろいろな経験をしてきました。だからこそ『思いをくみ取る』ようにしていますし、相手に『伝える』こともできます」

「きりある」が見つめる先には、大きな夢がある。(おわり)【取材:松本航、撮影:横山健太】

◆「Unlim」への参画
平山・立野組が練習するリンクの利用料金は、貸し切った場合は1時間半で3万6000円。仮に2人で折半すると1万8000円ずつになる。貸し切り費用をまかなうため、彼らはそれぞれがカフェでアルバイトを行っている。現在は大会前を中心にリンクを貸し切って練習するが、平山は「普段は(費用が)高いので、一般営業だけで練習する日が多いです」。

一般営業で滑走する場合、カップル競技は他の利用者の安全面を踏まえ、練習の制限を余儀なくされる。立野は「練習の選択肢を増やすことができれば、僕たちにとって、とてもありがたいです」と成長への意欲を示し、スポーツギフティングサービス「Unlim」への参画を決めた。

◆「Unlim」とは 
スポーツギフティングサービス「Unlim」は、「競技活動資金に充てさらなる強化をしたい」「競技の普及につなげたい」「スポーツ全体の発展に努めたい」「スポーツで社会貢献をしたい」など熱い思いを持つアスリートやチームに「寄付」という形で金銭的に支援するサービスです。下記バナーからアスリートへの応援ができます。

プロフィル
平山姫里有(ひらやま・きりあ)
◆平山姫里有(ひらやま・きりあ)1999年(平11)3月31日、岡山・倉敷市生まれ。小1でスケートと出会い、小4でのアイスダンス挑戦をきっかけに岡山市へ引っ越した。有川梨絵コーチに師事。18年全日本選手権ではアクセル・ラマッセ(フランス)と組んで2位。19年は石橋健太とのカップルで同3位。趣味は料理。150センチ。
立野在(たての・ある)
◆立野在(たての・ある)1997年(平9)8月29日、横浜市生まれ。物心がついた頃には都内で暮らす。スケートは小3で本格的に始め、小6でアイスダンスに転向。深瀬理香子とのカップルで14年から全日本ジュニア選手権3連覇。シニア1年目の17-18年シーズンは全日本選手権3位、4大陸選手権11位。18年夏に左肩の故障で現役引退。今季から平山とカップルを組んで復帰。170センチ。