07年逆転の再現!美姫2度目の世界女王/11年
◇2011年4月30日・最終日◇モスクワ・メガスポルト◇女子フリーほか
【モスクワ=吉松忠弘】逆転の美姫だ ! 安藤美姫(23=トヨタ自動車)が、今季GPシリーズから5戦して負けなしのフリーで、ミスを最小限に抑え、1位の130・21点をマーク。総合195・79点で、ショートプログラム(SP)2位から五輪女王の金妍児(20)を逆転し、07年以来4年ぶり2度目の世界選手権金メダルに輝いた。金妍児はジャンプにミスが出て194・50点で2位。2連覇を狙った浅田真央(20)は6位に終わった。初出場の村上佳菜子(16)は8位だった。
氷上の表彰台で、メーンポールに日の丸が揚がった。君が代が流れる中、安藤は日本への思いをはせた。「日本の人たちのことを考えて、少しでも笑顔が戻ってほしいと思って滑った」。少しでも力になりたいと演じたフリーの約4分間。熱い思いが、安藤を2度目の金メダルに導いた。
「ピアノ協奏曲イ短調」の力強い調べに乗り、安藤のフリーが始まった。冒頭の連続ジャンプが見事に決まると、体全体から気持ちがほとばしる迫力で日本へ思いを届けた。ダブルアクセル(2回転半)と3回転トーループの連続ジャンプが、後半2回転になった。「小さなミスが出て悔しかったけど、すべてにおいて強い気持ちで滑れた」。
ミックスゾーンで、報道陣の取材に答えている間に、SP1位の金妍児が総合で2位になった。モロゾフ・コーチが「ミキ ! 」と呼び掛け、報道陣の前で1分間の熱い抱擁を交わした。「表彰台に乗れて良かった。でも順位より、今までたくさん応援してくれた人に恩返しができたことがうれしい」。まだ3人が残っていたが、メダルを確信した。
- フィギュアスケートの世界選手権で2度目の優勝を果たし、「がんばろうニッポン」と書かれた日の丸を手に観客の声援に応える安藤美姫(共同)
8歳のころに、父親を交通事故で亡くした。当時、スケート教室に入会し、悲しみをスケートに没頭することで忘れた。「自分の落ち込んだ気持ちを吹き飛ばしてくれたのがスケートだった。今度は、その私のスケートが力になればと思った」。金メダルという最高の結果で、被災地に最高の笑顔を届けた。
今季は、本格的なスタートとなった昨年11月のGPシリーズ中国杯から5戦して、フリーはすべて1位。GP2戦、全日本選手権と、逆転で優勝を手にした。この日も、金との0・33点差を見事なフリーの演技で逆転。4年前の世界選手権優勝も金をフリーで逆転した。世界選手権2度目の優勝で、今季のフリーを負けなしで終えた。
初めて五輪に出場した06年トリノの元気な少女から、見事な大人の女性へと脱皮した。中京大中京高を卒業後、トヨタ自動車と所属契約を結び、同社の研修に参加。言葉遣いなど大人のマナーを一から学んだ。今年2月の4大陸選手権では、開催地・台湾の新聞に「性感(セクシー)安藤」と紹介されるなど、氷上のアーティストに変貌した。
心の強さも大きく成長した。06年に現在のモロゾフ氏をコーチに迎えると、練習拠点を米国に移した。昨年の夏からはラトビアとロシアを拠点とするなど、海外生活で精神的にもたくましくなった。負けん気は人一倍。昨年の全日本で優勝したにもかかわらず、2位に入って復活した浅田の記事が大きいと、悔しがったという。
その思いも、今大会の金メダルで見事に晴らした。サンクトペテルブルクでチャリティーショーがあるため、今大会後は日本に帰らない。「日本のために演じたことで結果がついてきたら、それは神様のごほうびかな」。安藤が笑顔で、金メダルをやさしく握った。
小塚が人生最高の演技で銀獲得!
◇2011年4月28日・4日目◇モスクワ・メガスポルト◇男子フリーほか
【モスクワ=吉松忠弘】全日本王者の小塚崇彦(22=トヨタ自動車)が、世界選手権初のメダルを獲得した。4回転ジャンプを決めるなど、人生最高の演技という完璧なフリーを演じ、自己ベストの180・79点をマーク。総合でも自己ベストの258・41点で、前日のショートプログラム(SP)6位から銀メダルに輝いた。優勝は世界最高得点のチャン(カナダ)だった。
体から、思わず熱い魂がほとばしった。人生で最高のフリー。最後のスピンの回転が止まると、小塚は両手でガッツポーズを繰り出した。「今までで一番の演技。これ以上できることはない」。普段から冷静な佐藤信夫コーチが、リンクサイドで両手を突き上げた。 全く減点がない演技だった。技術点の98・53点は、世界最高で優勝したチャンの96・44点を2・09点も上回った。冒頭の4回転トーループを完璧に着氷すると、連続を含む8つのジャンプを「最後まで落ち着いて、やれることを精いっぱいやろう」と、次から次へと舞い降りた。最後は観客が総立ちで小塚を迎えた。
- 男子で銀メダルを獲得した小塚崇彦のフリー(共同)
小塚は練習やウオームアップで、ストップウオッチを持ち、自分のリズムを計るのが日課。前日のSP前に、全てが少し速いリズムで行動している自分に気が付いた。「焦りまくって、運動会のお父さんのようだった」。フリーでは「足の上に自分の気持ちを置く」ことで落ち着かせた。
これまでは、フリー後半で疲れが見えた。しかも今回は、日本男子の中でただ1人、予選からの出場。体力面が心配されたが「この大会にピーキングしてきたので問題なかった」。予選から3度の演技を、最高の準備と、焦る気持ちを抑える冷静さで乗り切った。
14年ソチ五輪に向け、大きな夢が広がった。来季には「フリーに4回転を2回、SPにも入れるなど、どんどん挑戦したい」。開会式で、日本を気遣うロシアの優しさに心を打たれた。「このメダルが少しでも(被災者の方に)勇気を与えられればうれしい」。大きなプレゼントを持って小塚が帰国する。
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