真央銅、ヨナに完敗もソチへ光明!/13年
◇2013年3月16日・第4日◇カナダ・ロンドン◇女子フリーほか
【ロンドン(カナダ)=阿部健吾】浅田真央(22=中京大)が3大会ぶりに表彰台に上がった。ショートプログラム(SP)6位から、フリーは07年大会以来6年ぶりに自己ベストを更新する134・37点で、合計196・47点で3位。冒頭の大技2発はミスしたが、全体的な向上を確信する演技をみせた。2年ぶり出場の金妍児(韓国)が218・31点の圧勝で復活優勝。ライバルの存在も糧に、さらなる成長を誓った。村上佳菜子(18)が4位となり、日本勢はソチ五輪の出場枠「3」を確保。鈴木明子(27)は12位だった。
最終盤、白鳥が銀盤の上をはためくように小刻みにステップを踏み、回りながら考えていた。「やっと今シーズンの大きな大会が終わるな。最初のアクセルの失敗はあったけど、最後は本当に気持ち良く自分の力を出せたな」。勢いよくフィニッシュに流れ込み、うなずくこと3度。充実感が浅田の体を駆け巡った。
ミスより挑戦が価値だった。冒頭のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)は認定はされたものの「足を引くことがちょっと薄れていたのかな」と両足着氷気味。完璧ではなかったが、SPとフリーで3回転半が認定されたのは10年バンクーバー五輪以来だ。
続く連続3回転は1発目に回りすぎて、2発目がつけられずに終わったが「感触はよかった」。後ろ向きになる要素は1つもない。「練習も含めて充実していたので、悔しい気持ちはあるんですけど、自分がやってきたことはできた」。やってきたこと―。ジャンプでは軸を“細く”することだった。長年の肉体酷使でO脚が進行したことが、10―11年からの2季の不振の要因の1つだった。どうしてもジャンプの時に内股があく。軸が広がって“太く”なり、回転力が落ちた。
- 女子フリーでジャンプを成功させる浅田真央(撮影・井上学)
トレーナーと取り組んできたのは太もも内側の筋肉の強化。「脱O脚」で内股をピタリと閉じて、軸を細くすることを目指した。成果は今季花開いた。世界選手権までの6大会の計87回のジャンプで転倒なし。転ばないシーズンは06―07年以来6季ぶりだった。確実に安定感は増した。手応えが大きいからこそ、ライバルへの言葉も滑らかだ。
浅田 (金妍児が)復帰してきて、また切磋琢磨(せっさたくま)して、強いライバルがいるところでやっていることは、もちろん悔しい思いをすることもあると思いますが、また成長できるんじゃないかな。
合計で約20点差をつけられたが「今の時点では自分がミスをしている状態なので、ミスしない演技をして、どれくらい試合で争っていけるかを試していきたい」と次を見据える。そして、さらりと「ミスがあったので得点はそんなに伸びなかったですし…」。伸びない得点で6年ぶりにフリーの自己ベストを塗り替える成長ぶり。稼げる要素はまだまだある。金を捉える伸びしろは残している。
11年、12年ともに6位。奈落の底からはい上がっての3年ぶりの表彰台だ。さらなる高みには復活したライバルが立ったが、いま感じることは1つ。「確実にメダルという形まできたのは、これまで登ってきてよかったな」。
羽生4位、日本ソチ五輪日本出場枠3死守
◇2013年3月15日・第3日◇カナダ・ロンドン◇男子フリーほか
【ロンドン(カナダ)=阿部健吾】強行出場した羽生結弦(18=東北高)が日本の窮地を救った。左膝、右足首痛に耐え、フリーは169・05点の3位。技術点1位の演技でショートプログラム(SP)9位から合計244・99点の4位と追い上げた。ソチ五輪の国別出場枠で、上位2人の合計順位が「13」以内で決まる最大3枠確保が命題の大会。SPの不振で危機のなか、手負いの全日本王者が驚異の精神力をみせた。高橋大輔(27)は合計239・03点で6位、無良崇人(22)は8位、チャン(カナダ)が3連覇を飾った。
もう体力はなかった。心肺の酷使で乱れる呼吸、うずく両足の痛み。フィニッシュで高く上げた両手を振り下ろし、膝を折って四つんばいになった。額を氷に付け、激しく体は震える。「どうしょうもない状態」で浮かんだ言葉は「ありがとう」。羽生は静かにつぶやいた。
羽生 やり切った。体調が悪い中で、たくさんの方が体と心のケアをしてくれて、本当に感謝でいっぱいだな。終わってへたり込んで、氷にもすごく感謝 !
- 男子フリーで気合の表情で最後のポーズを決める羽生結弦(撮影・井上学)
演技中、いつ倒れてもおかしくなかった。4大陸選手権後にインフルエンザで10日間休養。さらに練習を再開した先月末に左膝の腱(けん)を負傷していた。
痛み止めの注射を打ち、薬も服用。指圧師が寝ずの治療をしてくれたが、回復具合は30~40%。追い打ちをかけるように、朝の練習で右足首も捻挫…。この半月まともに練習できず体力の不安もあるなか、「痛みよりも感覚を取りました」。痛み止めの量を抑え、激痛にむしばまれていた。
「すっごく不安」で、わずかな感覚が頼り。冒頭の4回転トーループから4回転サルコーへ。手をついたが、降りた。そこから「体力を残しておきたかった」とスピードを抑え、終盤へ。いつもの疾走感はないが、「枠取りなのに日本代表として申し訳ない。しっかりと最後まで滑りきろう」。使命感が痛みを超えた。 演技後、思った。
羽生 1年間やってきたことは1カ月くらいじゃなくならないんだな。
故郷仙台を離れ、10年バンクーバー五輪金メダルの金妍児を育てたオーサー・コーチに師事するため、カナダのトロントに渡ったのは昨年5月だった。
アパートで母と2人暮らし。地下鉄を乗り継ぎ練習場へ通う日々は戸惑いもあった。幼少期からぜんそくを抱える。ハウスダストなど呼吸器への影響を避けるマスクは日本では欠かせなかった。だが、カナダでは文化がなく「変な人に見られる」。冷たい視線も浴びた。通学は出来ず、通信教育。休みでも遠出はせず、練習と勉強に没頭した。悩めば、帰宅後も「家族会議」で母と映像を見て改善点を探した。時は過ぎていま、第2の故郷で積んだ1年間は、裏切らなかった。
SP終了時で、上位2人の合計順位が、3枠確保に必要な「13」以内ギリギリだった日本男子。救った18歳はソチ五輪への道を自ら広げた。1年後、その舞台の頂点に立ち、再び言いたい。「ありがとう」と。
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