ラグビー転向2年で、トップリーグ(TL)の頂点に王手をかけた男がいる。6季ぶりの優勝を目指す東芝のルーキー、プロップの知念雄(25)。陸上のハンマー投げで東京五輪出場を夢見ていたが、運動能力が認められて昨季から練習生として加入した。正式メンバーとなった今季は6試合に出場しており、24日に決勝のパナソニック戦(東京・秩父宮)でも勝負どころでの起用がありそうだ。

 184センチ、125キロの巨体。父信勝さん(52)は円盤投げで日本王者の経験を持つ。かつて「サラブレッド」と呼ばれた知念は、陸上で鍛え上げた強靱(きょうじん)な足腰で馬車馬のごとく駆け回る。20日の練習後、「2年でここまで試合に出していただけるなんて思ってもいなかった。東芝の皆さんが1つ1つ丁寧に教えてくれることに感謝し、恩返しのつもりで優勝に貢献できたらうれしい」。故郷沖縄の「シーサー」のような激しい表情を、優しい笑顔に変えた。

 自身も高校から陸上の投てき種目をはじめ、ハンマー投げでは高校総体、国体、大学選手権などで優勝を経験した。「正直、東京五輪も頭にありました。でも、それ以上にラグビーというか、東芝ラグビー部の魅力に引き込まれました」。投てき一家として知られ、弟豪さん(23=ゼンリン)は円盤投げで高校、大学と日本一に輝き、妹莉子さん(22=筑波大4年)も円盤、砲丸の両方で活躍する。

 きっかけは順大4年時、友人に頼まれてラグビー部の試合に助っ人で出場したことだった。その姿を見た元日本代表選手で駿河台大の松尾勝博監督に声をかけられ、東芝の薫田真広総監督に情報が伝わった。2度の練習参加を経て、大学院の卒業後に東芝の練習生となり、今季から正式メンバーになった。昨年11月のTL第3節ホンダ戦でデビューすると、準決勝のヤマハ発動機戦など6試合に途中出場している。

 モットーは「痛いところから逃げるな」。先輩たちの姿を見て学んだ。最初はまともにスクラムを組むことさえ出来ず、30分で足もつった。それでも毎朝7時からの朝練と居残り練習で鍛え上げた。「まだまだ分からないことばかりですが、優勝の笛の瞬間にピッチに立っていたら、それはすごい」。東芝6季ぶりの優勝へ、自らの姿を思い描いた。【鎌田直秀】

 ◆知念雄(ちねん・ゆう)1990年(平2)11月18日、沖縄市生まれ。美東小-沖縄東中を経て、那覇西高ではハンマー投げで高校総体優勝。順大でも大学選手権などを制した。順大大学院卒業。趣味は読書で最近は小説と自己啓発本を好む。好きな酒はビールと泡盛。家族は父、母専子さん(51)、弟、妹。184センチ、125キロ。ベンチプレスは190キロ。