柔道事故の対応を巡り、福岡市の男性とその父親が全日本柔道連盟(全柔連)にそれぞれ165万円の損害賠償を求めた訴訟が12日、東京地裁(鈴木昭洋裁判長)で開かれた。

証人尋問が行われ、全柔連の中里壮也専務理事らが出廷。紺色のスーツ姿の中里氏は証言台に立ち、当時の対応に関して「正しい判断だと思う」と主張した。当時と現在の指導方法の違いやルールなどを説明した上で「絞め技は体感しないと分からないと思うし、ルールで認められていることなので私は指導だと考える。体罰でもない」と述べた。

訴状によると、当時中学生だった男性は14年10月、福岡市にある道場の男性指導者から片羽絞めをかけられて失神した。男性はその後、迷走神経性失神、前頸部(けいぶ)擦過傷の診断を受けた。父親はこの件について、福岡県柔道協会に相談したが、被害者と加害者の説明が食い違い「事実関係を両者で話し合ってから来い」などと言われた。父親は「最後の頼みの綱」として翌15年11月に全柔連の内部通報窓口(コンプライアンスホットライン)に相談したが、福岡県協会に調査を依頼。全柔連は、被害者への聞き取りをせずに「指導者への説明は信用出来る」とした福岡県協会の調査に基づき、「問題ない」と判断した。この事故を巡る損害賠償訴訟に関して、18年6月に男性指導者が4万4000円を支払う判決が確定。福岡県協会は、指導者に厳重注意処分を科した。

全柔連は一連の対応について、日本スポーツ振興センターの調査を受け、「ガバナンスとコンプライアンスは問題ない」との回答を受けていたことを明かした。

原告の父親はこの日、息子の言葉を代弁し、「柔道を始めた1年目に、指導者から(競技をする上で)『心技体が大切』と教わったが、全柔連は心の部分の配慮がなさすぎる。(男性指導者への)処分や調査を福岡県協会に丸投げして何も分かっていない。やはり変わっていない」と怒りをあらわにしていた。【峯岸佑樹】