19年ジュニアグランプリ(GP)ファイナル王者の佐藤駿(16=フジ・コーポレーション)が、26日に公式練習が始まるNHK杯(27~29日、大阪)でシニアGPデビューする。

新型コロナウイルス流行の影響で第2戦スケートカナダ、第4戦フランス杯が中止となり、第6戦の今大会が日本勢初登場。男女シングル、アイスダンスの計4選手が日刊スポーツのフィギュアスケート総合情報ページ「Figure365」の取材に応じ、コロナ禍で感じた競技への思いを語る連載「フィギュアと私」の最終回。佐藤が再確認したのは、代名詞のジャンプへのこだわりだった。

「跳べなくなっちゃうんじゃないか…」。4月上旬から6月上旬までリンクを離れ、さまざまな心配の中で最も恐れたのが「ジャンプの感覚を失うこと」だった。「初めての経験で、すごく不安でした。今まで大きな負傷をしたことがなくて、あっても、捻挫で1カ月くらい。けがは仕方ないことだけど、今回はどこも痛くないのに滑れない。とにかく不安でした」。

小学校1年の時に経験した東日本大震災。その時を上回る約2カ月間のブランクをへて、拠点とする埼玉アイスアリーナの氷に乗った。「5歳で初めて滑った日を思い出しました。初めての時、こんな感じだったんだって」。2日後には3回転ジャンプを跳んだ。「最初はスケーティングだけしていて、感覚が戻ってきたので跳んでみた。ずっとモヤモヤしていた思いが消えました」と心が晴れた。

14歳だった18年夏に4回転トーループを決め、最新の武器は現在最高難度の4回転ルッツ。日本では羽生結弦と佐藤しか試合で成功していない。練習では15歳の夏に初めて着氷した。「実は(体を)締めて2回目で跳べたんです。1回目で回る感覚を知って、次に生かしてみたら2回目で」。

サルコー、ループも含めた4回転4種を、わずか1年で着氷した。現在はフリーにルッツ、サルコー、トーループ2本という3種4本を組み込んでいる。天性の一方で波はあったが、コロナ禍の中で覚悟を決めてから上向いた。羽生、宇野昌磨、鍵山優真らを念頭に「安定重視の構成では勝てない。滑りや演技力の差を埋めるためには、自分は難易度の高いルッツなどを跳ばなければいけない」と。

今季から振り付けを依頼するフランス人のブノワ・リショー氏にも、4回転3種4本の攻撃的構成だけは譲れない、と伝えている。「動画を送ってアドバイスをもらったり。リモートは難しく覚えるのに時間もかかりましたけど、ちゃんと演じられれば、すごいものができあがるんじゃないかな」と自ら期待を高める。

今月上旬の東日本選手権では、4回転ルッツを成功させた昨年12月のジュニアGPファイナル以来、約11カ月ぶりに同ジャンプを回り切って立った。結果はシニア初優勝。「あとはノーミスをそろえるだけだと思っています。以前はルッツがダメだったら『今日はやめとこう』って、やめていたんですけど、今は(4回転)3種類を毎日、必ず1本は降りられるようにしています。練習中の成功確率は上がってきているので、あとは曲をかけて精度を上げていきたい」と上々だ。自信を深めた生命線のジャンプでNHK杯の主役になる。【木下淳】(おわり)

◆佐藤駿(さとう・しゅん)2004年(平16)2月6日、仙台市生まれ。5歳の時、オリンピック(五輪)金メダルの荒川静香や羽生結弦らを輩出したアイスリンク仙台で競技を始める。全日本ノービス選手権4連覇など幼少時から活躍し、19年にジュニアGPファイナル制覇。フリーの177・86点と合計の255・11点はジュニアの世界最高記録を誇る。埼玉栄高2年。10月に宮城・富谷市に本社があるフジ・コーポレーションと所属契約を結んだ。162センチ。血液型O。