女子テニスで、全仏、ウィンブルドンのダブルスに優勝した彭帥(35=中国)が、消息不明になっている問題は、日増しに騒動が大きくなっている。彭帥は、同国の張高麗元副首相から性的関係を強要され、不倫関係であったことを2日に自身のSNSで公表。その後、連絡を絶った。

女子ツアーを統括し、女子選手組合の立場にもあるWTA(女子テニス協会)だけでなく、男子のATP(プロテニス協会)、ITF(国際テニス連盟)も声明を出し、彭帥の安全確保と徹底的な調査を要求している。この問題に関して、中国政府は正式なコメントは出していない。実は、この問題は、彭帥個人にとどまらない。世界の女子テニス界の存続にも関わってくるのだ。

女子テニス界は、10年以上、中国市場に頼りっきりだった。どのプロ競技も似た状況だが、男子に比べ、女子の財源確保は課題だ。その市場に中国が食い込み、国際化という名の下に、世界展開を目指す女子テニスと、利害関係が一致した。

コロナ禍前の19年の女子ツアーは、レギュラーツアーの大会数は57。これにツアー最終戦2大会の59大会で構成されている。その内、中国開催は7大会で、最終戦2大会はともに中国開催。1カ国で9大会開催は最多で、米国の8大会より多い。

特に深センで開催していた最終戦は、30年までの長期契約で、シングルス8人、ダブルス8組の出場で賞金総額1400万ドル(約15億4000万円)。シングルスで優勝したバーティ(オーストラリア)は、5試合で442万ドル(約4億8600万円)を手にしている。これは、19年全米優勝賞金の385万ドル(約4億2400万円)より多い。

中国が女子テニスに力を入れ始めたきっかけは、08年北京五輪だ。中国が、メダル獲得のために、狙いを定めたのが、女子ダブルスだった。最も層が薄く、短期間で強化ができると、固定ペアをつくり、早々と7年計画でツアーに送り込んだ。

強化の結果、04年アテネ大会では女子ダブルスで金メダルを獲得。08年でも同種目で銅メダルを獲得し、その強化育成が女子シングルスにも好影響を及ぼし、全仏、全豪を制し、アジア選手初の4大大会シングルス優勝者となった李娜を生んだ。

五輪でのメダル獲得と李娜の登場が、中国内で女子テニス人気に火を付けた。その頃、ツアー全体の冠スポンサーを失ったWTAは財政難に苦しんでおり、中国市場に目を付けた。WTAは米国フロリダに本部を置き、英国ロンドンに欧州本部を持つ。これに、アジア太平洋本部として、中国・北京に拠点を創設したのもこの頃だった。

しかし、コロナ禍となり、中国の大会は、いまだにすべて中止。加えて、彭帥の問題が拍車をかけた。もし、彭帥問題が解決しなければ、WTAは中国と決別することも考えられる。サイモン会長は、米CNNに「もし徹底追求が行われないなら、中国のビジネスから撤退する覚悟がある」と話したという。

女子テニス界にとって、数億ドルとも言われる巨額マーケットを失うリスクを生むが、サイモン会長は「これはビジネスよりも大事なこと」と1歩も退かない覚悟を見せる。今は、何よりも彭帥の安全が最優先であることは誰の目にも明らかだ。【吉松忠弘】