「あっためておきました」。

女子78キロ級で優勝した高山莉加(28=三井住友海上保険)はニッコリと、少し恥ずかしそうに冗談めかした。

この2年間、あたためておいた事。

「五輪で金メダルを取るのが目標です」。

公の場での、その宣言だった。

15年からシニア世代の国際大会に出場してきたが、世界選手権の出場経験はない。勝ち続けられない。勝負どころの大会で負ける。そんな自分の立ち位置を俯瞰(ふかん)すれば、大風呂敷を広げるような印象があった。「恥ずかしいな」。だから、優勝インタビューでも「五輪」という言葉はちゅうちょしてきた。

20年10月の講道館杯では初優勝したが、またも自重。その姿に、所属の上野雅恵監督にズバリと指摘された。「なんでああいう場で言わないの?」。自信のなさを鋭くつかれた。ただ、すぐに心境が変わるものではない。ましてや、78キロ級には鹿児島南高校の先輩でもある浜田尚里が君臨していた。東京五輪代表の選考レースでも、強さを見せつけられていた。

「雲の上の存在」。この日の決勝は、その浜田が相手だった。寝技の劣勢をなんとかしのぎ、後半に盛り返す。最後は延長戦で、逆に寝技で攻め、横四方固めで競り勝った。

序盤、男子も恐れる浜田の代名詞の寝技に耐える時、会場の応援が聞こえたという。「足が抜けそうになったんですけど、苦しい場面に応援の声が聞こえて。あきらめないぞって」。スタンドから所属先を中心に、背中を押された。

思えば、上野監督に諭されたのも、周囲への気持ちだった。「あなたが1人であきらめていいの? 応援してくれている人はどう思うの?」。ハッとした。その言葉が、弱気な自分を終わらせるきっかけになりそうだった。

守勢で聞いた声、そして東京五輪金メダルの浜田を直接対決で破った事。

あたため続けた時は満ちた。

「パリ五輪で金メダルを取ることが目標です!」。

選考レースで先頭を目指すにはまだまだ勝利が求められる。ただ、その声には、1つの迷いもなかった。