バレーボール男子のイタリアリーグ・セリエAで活躍する石川祐希(28=ミラノ)。男子日本代表の絶対エースは、中大時代の海外経験が現在の土台となっているという。
その石川が“発端”となった中大バレー部の次世代選手育成を目的とした海外派遣プロジェクト「THE FUTURES」。今月3日からは笹本穏(やすき、1年)がセリエAベローナへ派遣された。プロジェクトの目的と今後を、同大学の野沢憲治監督(42)に聞いた。【取材・構成=勝部晃多】
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パリ五輪切符を獲得したW杯バレー直後の昨年10月。石川は、母校中大でのバレーボール教室で、学生たちに向けて語りかけた。
「僕は大学に入った時、海外に行こうなんて思っていなかった。『行く?』って言われて『行きます』と言ったから、今の自分がある。そこで断っていたら今の僕はいなかった」
当時の松永理生監督(42=現京都・東山高監督)からの「日本にとどまっていていい器ではない」という言葉で、大学1年時の14年にイタリアへ渡った。あれから10年。9季にわたり、世界最高峰のリーグで牙を磨き続け「新しい世界を見ることで可能性が広がった」と力を込める。
石川のイタリア派遣から2年後の16年。中大バレー部後援会を中心とした海外支援プロジェクト「THE FUTURES」が産声を上げ、翌17年に本格的な活動をスタートさせた。バレー界の将来を担う選手の輩出を目指し、バレー部OBに加え、大学OBの企業家たちが、渡航費や生活費を全て負担する。
松永監督の後を受けた豊田昇平監督、そして昨年に就任した野沢監督。新型コロナの影響で中断となった時期はありながらも、設立当時の意志を受け継ぎながら、醸成させてきた。これまでイタリアリーグを中心に計5度、10選手を派遣。このプロジェクトを経験した都築や鍬田らは現在、Vリーグ1部で活躍する。野沢監督は「やっぱり、海外に出て行かないと大きくならない。海外で何もできない無力感を感じて、一回り大きな選手になってほしい」という。
同監督も、サラリーマン時代に東南アジアで5年間の生活経験がある。だからこそプレー面だけではなく「日本の常識は世界の常識ではないことも知ることも重要」と、心の成長も求める。約2カ月ではあるが、トッププレーヤーと寝食を共にする経験は、人生においても大きな財産になるという。「まずは彼らから人間性や人柄を勉強してきてほしい。最終的に、それが次の世代を作っていくことにもなる」。
誰しもが海を渡れるわけではない。派遣先クラブは“セレクション”を実施。まずプレー動画集を作成してプロフィルとともに推薦するが「185センチ以上の子や、アウトサイドヒッターかミドルブロッカーじゃないと難しかったりする」と体格やポジションによる制約がある。今季はセッターも推したが、身長でかなわなかった。それでも「可能な限り、いろいろな子にチャンスを与えてあげたい」(野沢監督)。今後はイタリアだけではなく、他の欧州リーグや東南アジアなどバレーが盛んな地域に活動の場を広げていく計画だ。
石川の存在から端を発したプロジェクトだが、野沢監督はそのゴールを「第2の石川を作ることが目的ではない」と言い切る。「大谷選手の『憧れるのはやめましょう』ではないけど、石川を目指したら石川は超えられない。自由な発想を持って、自分が率先していろいろなことにチャレンジしていってほしいと思っています」。世界に羽ばたき、輝く選手の誕生を願い、これからも学生たちの背中を押していく。
◆野沢憲治(のざわ・けんじ)1982年(昭57)1月5日、神奈川県川崎市生まれ。神奈川・橘高から中大。04年にVリーグ豊田工機(現ジェイテクト)に入団。10年に退団し、その後は社業に専念。22年4月、ジェイテクトに籍を置きながら中大のコーチに就任。23年1月に監督に就任。現役時代はセッター。
○…今年ベローナで練習生としてプレーする1年生アウトサイドヒッター笹本穏(やすき)は、強い決意で吸収に努める。約1カ月前にイタリア行きが決まり「自分がどれだけ通用するか試したいし、本当に得られるものしかないと思う」と気持ちを高ぶらせた。愛知・愛工大名電時代はエースとして春高に出場。中大に進学したきっかけの1つに「石川祐希さんから代々行っていたので、そういうものがあるんだと」と、この海外派遣プロジェクトを挙げる。「こんなに早い段階で行けるのは、中央大だからこそ。選んでいただいたのがうれしい」と目を輝かせた。
○…野沢監督は、派遣選手に練習ノートをつけることを義務づける。「通じたことや通じなかったこと」「誰にどんなことを教えてもらったか」など、日々の練習内容を詳細に書き留めさせ、現在地と目標との距離を明確にさせている。このノートは画像化し、同大バレー部メンバーと共有。イタリアで行われているトレーニングを練習メニューに取り入れるケースもあり「1人の経験だけで終わらせない。みんなに還元しています」と話した。
○…石川祐希は、今季もミラノの枢軸として上位進出を目指すチームをフル回転でけん引する。昨年の日本代表期間から続く腰痛の影響で数試合の欠場はあったものの、5日時点でリーグ28位の167得点、同26位のサービスエース16本を記録。サーブレシーブのランキングでは12位につけている。代表で主将を務めるリーダーシップは、イタリアでも健在だ。目標は初のリーグ4強入りを果たした昨季超え。チームは現在、9勝8敗の5位。残り5試合となったレギュラーラウンドで、さらに状態を高めていく。


