12年ロンドン五輪(オリンピック)競泳男子200メートル背泳ぎと400メートルメドレーリレーで銀メダル、100メートル背泳ぎで銅メダルを獲得した入江陵介(34=イトマン東進)が3日、現役引退を発表した。

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20年東京五輪(オリンピック)を控えた時期だった。水泳担当として、入江にどうしても聞かなければいけないことがあった。

 

東京五輪が終わったら引退するのか?

 

入江は、08年北京五輪から日本男子背泳ぎを引っ張ってきた。

額にペットボトルを載せて泳ぐ、乱れないフォームが代名詞。

東京五輪個人メドレー2冠の大橋悠依も、子どものころに頭にペットボトルを載せてマネをしたという。

そんな第一人者の去就は、大きな関心事だ。

16年リオデジャネイロ大会ではメダルを逃して、涙の「賞味期限切れ」と発言もしていた。

担当記者として、この質問は避けて通れない。

ただ入江と1対1になる機会はなかなかなかった。

焦りは募るばかりだった。

そんな時、ある女子選手の出発で成田空港にいった。

そこに、同じ所属だった入江がいた。

入江は「あれ?」という顔をした。

記者は1人。

千載一遇のチャンスだと思った。

「どうしても聞いておかなきゃいけないことがあるんです」

「何ですか?」

「東京五輪が終わったら引退しますか?」

しまった、と思った。

頭の中をぐるぐる回っていた質問が、そのまま口から出てしまった。

他にも聞き方はあるのに、直球にもほどがある…。

入江は「それ、聞くの?」というような顔で苦笑いした。

「それは東京五輪を終わった後の気持ちになってみないとわかりません」。

その上で「やっぱり僕はメリレ(メドレーリレー)にこだわりがあるんで。日本のメドレーリレーをもう1度、世界のトップに近づけたい。背泳ぎで自分を追い抜くような後輩が育つまでは、という思いがあります」

礼を欠いた質問にも怒ることなく、穏やかに対応されて、救われた気持ちになった。

明言こそしなかったが、現役続行は確実だと感じた。

 

コロナ禍で1年延期された東京五輪を終えて、入江が100メートルを主戦場にしたのは、やはりリレーへのこだわりがあっただろう。

 

今年3月の競泳五輪代表選考会、第3日。

男子100メートル決勝で12歳年下の22歳松山陸に敗れた。

派遣標準記録に届かず、2位になったことで、400メートルメドレーリレーの代表になる可能性もなくなった。

まだ200メートル背泳ぎは残っていたが、事実上の「ラストスイム」だっただろう。

自分を追い抜く後輩が現れるまで泳ぎ続けたことは、完全燃焼といえるのではないだろうか。【16年~21年水泳担当=益田一弘】