角界が脈々と受け継いできた「一門の壁」が崩壊した。当初は7票止まりと見られていた貴乃花親方(元横綱)へ、土壇場になって他の一門から3票が流れる大逆転劇。動いた票は、二所ノ関一門から1票と立浪一門から2票と見られる。これによって立浪一門の長で現職だった大島親方(62=元大関旭国)が落選。両一門とも理事選前から会合を重ねて票計算をしてきただけに、親方衆の間でも造反の衝撃が大きく走った。

 今回の理事選では、立浪一門から2票、二所ノ関一門から1票の「造反票」が貴乃花親方へと流れたとみられる。このため、当選が確実視されていた立浪一門の長で現職だった大島親方が落選。同親方はぼうぜん自失の体で「負けたということだね…」とだけ話し、足早に車へと乗り込んだ。

 大島親方は70年代、貴乃花親方の父である故二子山親方(元大関貴ノ花)としのぎを削り合って土俵を盛り上げた。プライベートでも仲が良く、05年5月に二子山親方が亡くなった際には、同親方が生前に貴乃花親方のことで悩んでいたことなども打ち明けている。くしくも今回は、かつての盟友の息子に理事の職を追われた格好となった。

 想定外の逆転劇に、他の親方衆も動揺を隠せない。貴乃花親方が離脱した二所ノ関一門では、選挙前日の1月31日に都内のホテルで一門会を開催。親方衆の最終的な意思確認をしたばかりだった。それでも貴乃花親方支持の1票が流出。再選を果たした二所ノ関親方(元関脇金剛)は「ショックだよな…。(貴乃花親方の)改革といっても、よくわからない。昨日集まったにもかかわらず、ウチから1つ流れた。残念でしょうがない」と、造反者が出た悔しさをあらわにした。

 立浪一門は投票前日に、当選予定者の前祝いまで開いた。にもかかわらず、造反者を出したため、開票後に国技館内の一室に約10人の親方が集合して会合を持った。だが数人が途中で退室するなど重苦しい雰囲気となった。かつて大島親方の弟子だった伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)は「不本意ですよ。それだけ…」と言葉少な。春日山親方(元幕内春日富士)は造反者の割り出しについて「無記名だから分かるわけない」と硬い表情だった。

 今回の投票は無記名だったため、誰が貴乃花親方に投票したか現状では分からない。だが、ある親方は「(造反者を)捜すことになるだろう」とも。いずれにしても、風雲急を告げた今回の理事選が、不祥事の続く角界に一石を投じたことだけは間違いない。【山田大介】