「アレ」から19年…。今回のアレとは2005年9月7日、マウンドで発した阪神監督、岡田彰布の言葉。「打たれろ。むちゃくちゃやったれ。オレが責任を取る」。9回裏1死満塁。投げる久保田はその時のことを、はっきりと覚えているのだろうか。

20年近く過ぎた今年、久保田と雑談した時、あのシーンに話題が移った。岡田が本当に「むちゃくちゃやったれ」と伝えたのかどうか。所説あるし、盛られた発言との声もあった。それを久保田に問う。彼は笑いながら「自分も興奮していて、監督が何を言ったか、よく覚えていないんです。ただ、オレが責任を取るから…というのは、鮮明に覚えている」。

抑えたらベンチの手腕、打たれたら投手の責任。そんな薄い責任論を改めて感じる。「責任を持って送り出す。それくらいの覚悟を持って、こちらも挑まないと。そういう覚悟を教えてもらったのも、あの時の監督の言葉があったから」。

久保田はブルペンを担当する投手コーチだ。ベンチコーチの安藤とともに、岡田の信任は厚い。それは自ら数々のブルペン経験を積んできたからに他ならない。投手はデリケートなポジション。それぞれにタイプがある。それを熟知するのもブルペンコーチの役割といえる。

例えば4月10日の広島戦。先発伊藤将が2回で6失点。まさかの展開で3回からブルペンは動く。2番手の漆原から始まり、9回までの7イニングを無失点で終えた。負け試合の中だから、クローズアップされないけど、岡田がしみじみと語った「ウチには敗戦処理投手はいない」という高レベルの厚みを示した形になった。

ブルペンを預かる久保田は結構ドッシリとしている。あたふたしない懐の深さを感じる。「各投手の性格、力を把握して、それをマウンドで出せるように。そして送り出した限り、責任はこちらが取るくらいの気構えで、って思っている」。

今年から新外国人投手がブルペンに加わった。来日後、キャンプでじっくりとゲラの投球内容と性格を見定めた。新しい外国人ということで半信半疑のところがあった。だが、実戦で投げる球を見れば「ほとんどが低めにきて、コントロールも乱れがない」と判断。「それにつかみどころがないというか、精神的にも安定していて、ブレない。これなら後ろは十分にいける」と確信した。

この先、リリーバーの構成に変化は起きるだろうが、ここまでの絶対的な収穫はゲラと岩崎のダブルクローザーの確立。リードしての8、9回。どちらが先に出てホールドがつき、あとに投げる方にセーブがつく。昨年までの岩崎の負担を軽減し、相手の打順の巡りで使い分けができる新システム。この武器を持つのが阪神の強みといえる。

それまでの例えば6、7回をどう展開するか。ブルペンで久保田は考えを巡らせ、ベンチに人選を提示する。「今年もペナントはブルペン勝負よ」とする岡田と久保田。19年前のあの関係が、いまもなお続いている。【内匠宏幸】(敬称略)