2007年(平19)夏、聖光学院(福島)の3番渡辺侑也内野手(25=鷺宮製作所)が、2回戦青森山田戦で春夏通じ東北勢初の満塁本塁打を放った。そのホームランは、渡辺の人生を変える大きな1本となった。

07年8月、5回裏聖光学院2死満塁、渡辺侑也は右越えに満塁本塁打を放つ。投手石井
07年8月、5回裏聖光学院2死満塁、渡辺侑也は右越えに満塁本塁打を放つ。投手石井

 0-0で迎えた5回裏2死満塁。渡辺は狙っていた初球の内角低めのシンカーを振り切った。ライナー性の打球は、右翼ポール際にそのまま飛び込んでいった。166センチの二塁手。高校通算11本目が、甲子園でのグランドスラムになった。

 渡辺 入っちゃった、みたいな感じでした。まさかホームランになるとは思っていなかったので。あれは自分の力だけで打ったわけじゃない。そもそも、みんなが満塁にしてくれたのがありがたいと、今でも思っています。

 前年秋の東北大会決勝では、東北エースで現ヤクルトの由規から3安打と勝負強さをみせた。だが、センバツではノーヒットのまま初戦で市川(兵庫)に2-4で敗退。最後の打者になった悔しさを胸に、夏まで1日1000本以上の振り込みを続けてきた。

07夏2回戦のスコア
07夏2回戦のスコア

 この試合で満塁弾を含む3安打5打点と大暴れ。インパクトを残し、大会直後に高校日本代表に選ばれた。

 渡辺 正直、あのホームランで高校日本代表に入れたと思いますし、そこから早稲田にも進学できた。それで、今も社会人で野球を続けていられる。あれで野球人生が大きく変わりました。

 入学した早大には、3学年上に阪神上本、1学年上に日本ハム斎藤など高校時代のスター選手がひしめいていた。努力を重ね、3年春に二塁のレギュラーを獲得。そのシーズンに3割8分1厘で首位打者に輝き、ベストナインにも選ばれた。

 渡辺 大学に上がって一気にレベルが上がりました。レギュラーを取りたいと思っていましたが、セカンドに上本さんがいて、とんでもない話だな、と(笑い)。ただ、メンバーと一緒の練習には1年から入らせてもらえた。上本さんとも一緒にプレーさせてもらい、それで学んだ部分は大きいです。首位打者をとる前の春のキャンプでは、誰よりもバットを振り込みました。

鷺宮製作所でも二塁レギュラーとして活躍する渡辺侑也内野手
鷺宮製作所でも二塁レギュラーとして活躍する渡辺侑也内野手

 現在、社会人4年目。ドラマ化された小説「ルーズヴェルト・ゲーム」のモデルである鷺宮製作所で二塁レギュラーをはる。09年以来遠ざかる都市対抗出場へ、5月末の予選に照準を合わせる。

 渡辺 東京地区を勝ち抜くのは大変ですが、今年は特に東京ドームに行きたいです。走攻守すべてで目立てる内野手になっていかないと。

 昨年、聖光学院は戦後最多タイとなる8年連続の夏の甲子園出場を達成した。その1年目、07年に出場した渡辺らは県大会を勝ち抜くのも必死で、「余裕が一切なかった」という。

 渡辺 僕らの代は強かったわけではないので、チームメートみんなが努力していました。甲子園に行きたい気持ちがすごく強かった。誰でも立てる場所ではない。それなりの努力が絶対必要だと思います。僕だけかもしれないですけど、甲子園はグラウンドと観客席が「中と外」という感じでした。応援に圧倒されることはなかった。集中できたんですかね。とてもプレーしやすかったです。

 甲子園は、人生を変えてくれた最高の舞台だった。【高場泉穂】