前回の13年WBCで優勝したドミニカ共和国は、16年開幕時に米国に次ぐ82人がメジャー登録された。殿堂入りした元投手のペドロ・マルティネス氏(元メッツ)や16年シーズン限りでの引退を表明したデービッド・オルティス(レッドソックス)らを輩出したカリブの盟主を歩き、現地の野球熱に触れた。

(2016年4月8日付紙面から)

全体練習前に子供たちの練習相手になるDeNA筒香
全体練習前に子供たちの練習相手になるDeNA筒香

 首都サントドミンゴ。着陸前に飛行機の窓から地上を見下ろすと、至るところに点在する野球場の多さに驚かされる。ドミニカ共和国を歩けば、球場、公園、道ばたと場所を問わず、笑顔で野球を楽しむ子供たちに出会う。

 ドミニカ野球の基本は「野球を楽しくプレーすること」だ。同国出身の選手が見せる守備での柔らかなグラブさばき、そしてパワフルな投球と打撃は、身体能力の高さだけがすべてではない。幼少期から一貫して行われる「個々の才能や長所を伸ばす指導」がベースになっている。

 子供たちにとって大切なのは、試合の勝敗以上に、長所を磨いて将来的にメジャーで活躍することだ。投球フォームが個性的でも、ストライクが投げられればいい―。足が遅ければ、打球を遠くに飛ばして走る時間を稼げばいい―。監督やコーチから飛ぶ声は「いいぞ、その調子」「次はもっとすごいプレーができそうだな」という褒め言葉が並ぶ。間違っても、「あんな球も捕れないのか?」などの叱責(しっせき)は聞かれない。

 より実戦に近い練習が行われているのも印象的だ。たとえば、トスバッティングでは、日本ではボールを横から投げることが多いが、ドミニカではより正面に近い位置からトスする。理由は単純明快。試合で投手は正面からボールを投げるのだから、同じ状況でボールをバットの芯で捉える練習をしなければ意味がないと考える。

 
 

 ドミニカ共和国に代表される中南米の指導方法を日本に紹介しようと活動するのが、NPO法人BBフューチャーの阪長友仁氏(34)だ。新潟明訓で甲子園に出場し、東京6大学の立大では主将を務めた同氏は、一般企業を2年で退職後、アジア、アフリカ、中南米で野球普及に携わり、日本とは違う野球のあり方に感銘を受けた。

 「中南米の野球を知れば知るほど、身体能力やハングリー精神の違いがすべてではない、長期的な視点で能力を伸ばす育成方法は日本でも可能だと、感じました」

 各地で講演活動をするかたわら、昨年12月には中学、高校、大学の指導者15人とドミニカ共和国を訪問。現地で指導法の違いを紹介し、「野球だけではなく、日本の教育が抱える問題に対するヒントを見た気がすると言っていただいた」と、大きな手応えを感じた。

 BBフューチャー傘下にある中学硬式チームの堺ビッグボーイズ(大阪)では、早くから子供の能力を引き出す指導に取り組み、DeNA筒香、西武森らを輩出した。日本野球がさらなる発展を目指す上でも、「野球大国」の理念や指導方法を知ることは、1つの答えにつながるかもしれない。(つづく)【佐藤直子】