2勝9敗-これ、何の戦いの数字かわかりますか? それは…! 智弁学園のキャプテン、岡沢智基君(捕手・3年)の試合前の先行後攻ジャンケンの勝敗です。


 「自分、本当に弱いんです。監督にも、“あぁ~今日も絶対に負けるわ”って言われています(笑)」と、この選抜、初戦の福井工大福井戦が終わった後、話してくれました。


 ジャンケンと言っても侮ってはいけません! 勝った方が先行、後攻、好きな方を選べるのです。野球における“後攻”は万が一、延長に入った場合、得点しサヨナラのチャンスがあり有利と言われますが、中には先行で逃げ切りパターンを好む高校も。どちらにしても、その試合の流れを決める重要な戦い。かく言う岡沢君は、キャプテンとしてジャンケンに勝って「後攻」を取ってくる、というチームの責任を背負っていたのですが…昨秋、岡沢君がキャプテンに就任してからというもの、秋の大会に入り気が付くと負け続け。あらためて自分のジャンケンの弱さを知ったそう。チームメートも、「どうせ負けるから」と、最初から先行の心づもりをしているそう。


元気よく私とジャンケンをしてくれた岡沢君。その結果は…!?
元気よく私とジャンケンをしてくれた岡沢君。その結果は…!?

 そんなジャンケンの弱さを克服するために、教室でも、クラスメートとジャンケンをして回り練習。携帯で、「ジャンケン必勝法」「ジャンケンに勝つには」などを調べ暇さえあれば練習をするも、なかなか成果は上がりませんでした。

 そればかりか、昨年秋の近畿大会で大阪桐蔭と対戦した時には、それまで「最初はグー! ジャンケンポン!」の掛け声だったのが、大阪の審判員が「インジャンホイ!」と聞きなれない大阪のジャンケンのかけ声。「初めてのかけ声に動揺して負けちゃいました…」。(岡沢君)

 そこで、集中力を高めるために昨年のラグビーワールドカップで話題になった五郎丸選手のルーティンを取り入れジャンケンに臨む始末。それには、チームメートたちも大爆笑でした。


五郎丸ポーズでジャンケンに挑む岡沢君。「完コピしました!」と言うものの、残念ながら効果はありませんでした…(涙)
五郎丸ポーズでジャンケンに挑む岡沢君。「完コピしました!」と言うものの、残念ながら効果はありませんでした…(涙)

 秋の大会の唯一の1勝は近畿大会での奈良大付戦。この時の勝因は?

「気合です!」(岡沢君)

 ん!? 必勝法は関係なかった(笑)!?


 さて、甲子園では…というと、1回戦の開幕試合では、実は負けたのに相手の福井工大福井が先行を選んでくれたそう。「今日は後攻や」とチームメートに伝えたところ、「オマエ、勝ったんや! 奇跡やな~。よくやったわ~!」とチームメートは拍手喝采。

「あまりにもみんな喜んでくれたので、思わず、“負けたんや”と言えなくなっちゃって。唯一負けたことを知っている部長先生と目を合わせて苦笑い。みんなにウソをついてしまったことで、試合中もずっとモヤモヤしていました(笑)」(岡沢君)

 2回戦の鹿児島実戦、準々決勝の滋賀学園戦、龍谷大平安戦も…はい、すべて負けたにも関わらず運よく後攻。そして、ついに決勝戦での最後の戦いは………勝利で気持ちよく後攻を勝ち取ったのだそうです!


 実は、昨夏、ジャンケンについてちょっと取材をしたことがあります。一昨年前、夏の甲子園を制した大阪桐蔭のキャプテン、中村誠君(現・日体大・2年)は、大阪府の理事の方からじゃんけん必勝法を伝授。その教えはこう。お互いに向き合ったとき、目をしっかり合わせてくる人は“グー”を出すから“パー”。逆に、そわそわして焦点があっていない人は“チョキ”を出す可能性が高いから“グー”を出す。チョキはほとんど出さなかったそう。なるほど~、意外にもジャンケンって心理戦なんですね。

 他にも、「緊張していれば“チョキ”は出にくく、パーを出していれば負けない」という監督さんも。

 ちなみに…私も岡沢君と勝負してみました! ハイ…あっさり(チョキで)勝っちゃいました(苦笑)。

 「や…やめてください…自信がなくなっちゃうから…」なんて言っても、決勝でしっかり勝負をとるところ、さすがです! きっと、岡沢君の運は、試合と決勝戦にた~っぷりとっていたからだね、きっと! 

 

 昨年は二度も右肩をケガ。今年に入ってからも右中指を手術。

 「本当にこれまでケガばかりで全体練習にともに参加できていないんです」

 そんなリハビリの毎日でも、岡沢君にはキャプテンとしての秘策がありました。

 「ウエートはグラウンドから見えないところにあるんですが、僕はあえてリハビリで使う器具をグラウンドに持ってきて、みんなが見えるところでろてーニングを行うようにしてきました」

 例え陰でやっていても、チームメートの目に触れないところなら、「キャプテン、何やってんねん」と意見が出かねない。信頼を得るために、わざと見えるところでリハビリ。また、トレーニングをしながら見て感じたことはすぐにメモ帳へ。その日のミーティングで指示。

 「声は出ているけど、外から見たら内容のない、ただ声を出しているだけ。ちゃんと相手の名前を呼んで相手にしっかり伝わるような声を出すように、という指示を出したことがあります」

 なるほど、ただ見ているだけじゃないんですね。それに加え、この通りチームイチのムードメーカー! キャプテンは“チームの嫌われ役”なんて言われますが、それどころか、いつも笑いの中心にいるのがキャプテン!

 「キャプテンってクールキャラが多いと思うんですが、僕は違います。常に、人を笑かせることを考えてますよ(笑)」

 こんな岡沢君だからこそ、上下関係をなくすために後輩たちに「タメ口」を認めたり、チームの改革を進めることができたんですね。


 ジャンケンに弱くたって、大一番で勝負をかけてくれる頼れる智弁学園のキャプテン。この存在が、チームを優勝に導いてくれたんですね。

 あぁ~それにしても、春の大会、そして夏の大会のジャンケンの行方が気になる~!


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