名将が県内最大のライバルを迎え撃つ。全国高校野球選手権大会(8月6日開幕、甲子園)神奈川大会で、今夏限りで勇退する渡辺元智監督(70)率いる横浜が桐光学園にサヨナラ勝ちし、2年ぶりの決勝に進んだ。先発した左腕の石川達也投手(2年)が、延長10回に右越えサヨナラ二塁打。3戦連続で1点差ゲームをものにした。もう1つの準決勝は、連覇を狙う東海大相模・吉田凌投手(3年)が6回2/3を4安打1失点、10奪三振と好投し、7回コールドで日大藤沢を下した。幾多の名勝負を繰り広げ、神奈川の高校野球界を引っ張ってきた両雄が今日28日、雌雄を決する。

 この日の風も、横浜に吹いていた。最後の夏に挑む横浜・渡辺監督がサヨナラ勝ちで神奈川頂上決戦にコマを進めた。「やっぱり、感無量ですよ。選手を信用して良かった」。3戦連続で1点差ゲームをものにし、春夏合わせて5度の日本一を手にしてきた名将も、劇的勝利に興奮を隠しきれなかった。

 2点リードで折り返したが、6回に3点を奪われ、1度は追う展開になった。桐光学園に傾きかけた流れを呼び戻したのは、やはり渡辺監督の言葉だった。「これが高校野球。田んぼの中のヒルじゃないけど、くっついたら離れない、あきらめない我慢の野球をしよう」。7回2死。渡辺監督に憧れて長崎から上京した1年の増田珠外野手が左翼席へソロ本塁打をたたき込み、すぐさま同点とした。

 ナインの執念も勝った。延長10回1死二塁。先発して4回1/3を無失点に抑え、左翼へ回っていた石川は打席で空を見上げ、写真の入った左ポケットに手を当てた。「じいちゃん、力をくれ」。外角低めの直球を流すと、打球は右翼手の頭上を越え、サヨナラの走者がかえった。大好きだった祖父の石川才寿郎(さいじゅろう)さんが23日、急性腎不全のため77歳で亡くなった。告別式は準決勝前日の26日に執り行われ、参列できない代わりに直筆のメッセージをひつぎに入れた。

 じいちゃん、いつまでも見守っててね。さみしいけど俺、頑張るからさ!!

 有言実行した石川が、そして、ノーシードから7試合を勝ち進んだ選手全員が、渡辺監督は誇らしかった。「石川は、じいちゃんが亡くなって打たせてくれたんでしょう。明日もチャレンジャー精神。負けない野球、倒れても倒れても起き上がる野球をやらせたい」。サヨナラ勝利から約3時間後、決勝の相手が連覇を狙う東海大相模に決まった。神奈川の高校野球史に刻まれる、ライバル物語の最終章にたどり着いた。【和田美保】

 ◆横浜・渡辺監督の神奈川大会決勝成績 過去は通算12勝11敗だが、50歳を過ぎた95年以降の20年間は9勝2敗と甲子園出場率が高い。今大会は1回戦から登場して7連勝。8勝以上でVなら初体験になる。

 ◆横浜吉兆データ 98年以降、夏に横浜と桐光学園の直接対決は7回あり、勝利した方が甲子園出場を決めている。そのうち、横浜は6回勝利し甲子園へ出場した。