ジョーカー(切り札)になる。第89回選抜高校野球に2年ぶり12度目出場の仙台育英(宮城)は今日23日、福井工大福井との1回戦に臨む。1月下旬の左眼窩(がんか)底骨折から驚異的な回復力で甲子園に間に合った尾崎拓海捕手(3年)は、勝負どころで代打で起用される予定。昨秋4番に座った打撃力で勝利を呼び込む。22日は兵庫・西宮市内で最終調整した。

 左目はまだ少し腫れている。骨折箇所を固定するプレートを埋め込んだ手術を受けた跡も、残っている。それでも甲子園は尾崎を待っていた。「(医者から)センバツは厳しいと言われていた。とても幸せだと思っている」と実感を込めた。この日はシートノックや打撃練習など、他の選手と同じメニューをまったく問題なく消化した。

 1月下旬の練習でボールが左目を直撃し、眼窩底を骨折した。2月上旬に手術を受けて静養。本格復帰したのは今月に入ってから。執刀した担当医が自画自賛したという手術で、練習試合では安打を重ね、マスクもかぶった。ボールとの距離感にまだ不安がありスタメンは難しいが、仙台育英の代打の切り札という大きな仕事が待っている。

 佐々木順一朗監督(57)は「かわいそうだから出す、ということはしない」と戦力として考える。尾崎は「いちかばちかの場面で出ると、言われている」と明かした。試合を決めかねない絶好機、もしくは反撃の一打を期待…。代打後は捕手に就く可能性もあり、出番は展開次第。同監督は「喜んで打席に立てるようなシチュエーションをつくりたい」とも話す。

 4番を務めた昨秋は「打てなかったらどうしよう」と、悩みながら打席に立ったことが多かった。だが大けがをしたことで「悩みの種がなくなった。好きな野球をやれているのだから」と、今は雑念がなくなった。持ち味はフルスイングで、早いカウントから積極的に振りに行く。右打席から右方向へ強い打球も運ぶ。

 調布シニア時代のチームメート、早実(東京)のプロ注目スラッガー清宮幸太郎(3年)と対戦への道も開けた。「1試合ずつ戦っていく上で清宮と戦えたら」と夢を膨らませた。センバツに間に合った強運を、バットにも乗せる。【久野朗】