星稜が「奥川劇場」で決勝にコマを進めた。鵬(おおとり)学園戦は大苦戦。7回から救援した今秋ドラフト1位候補の奥川恭伸投手(3年)が逆転を許したが、同点弾、延長10回の勝ち越し決勝弾と自らのバットで勝利をもぎ取った。

「恐怖を感じた。すごく嫌な直感があった。そうするとミスが起きてしまう」。そう振り返ったのは3点リードした直後の延長10回裏の守備だ。2死一塁から小池田樹(3年)を打席に迎えた場面だった。

小池田は宇ノ気中で一緒に全国制覇した元チームメート。奥川がエース、小池田が2番手で、仲もよかった。5回途中からマウンドにも上がり、苦しめられていたが自ら2本塁打して、ようやく突き放していた。

小池田は両足を何度もつりながらプレーを続行し、マウンドを降りることもしなかった。ユニホームは上下真っ黒。「体は限界。気持ちだけでした」。そんな男を打席に迎えると異常な気迫が伝わってきた。打席で泣いているのが見えた。

嫌な予感は的中した。打球は高いバウンドになった。奥川自らが捕球し、急いで一塁に送球したが、悪送球になった(安打と失策)。一塁から走者がかえって、2点差とされた。小池田は足を引きずりながら二塁に到達。その時点で「ギブアップ」し交代した。その後は力で何とか抑えてゲームセットを迎えた。

整列を済ますと奥川や同じ宇ノ気中出身の山瀬慎之助主将(3年)ら星稜ナインが真っ先に背番号8の元に駆けつけ、抱き合った。号泣する旧友に「本当に頑張っていたぞ」と口々に伝えた。抱きつかれた奥川も泣いていた。

小池田は「甲子園に行って、絶対に全国制覇してくれよ」と奥川に言った。返事は「任しとけ」だったという。小池田は「宇ノ気中のみんなの思いも、負けた選手の分も託しました。胸を張って甲子園に行ってほしい」と優勝を願った。

奥川も受け止めた。「相手が全力で向かってきた中で勝たせてもらった。相手の思いを授かった気持ちになった。負けた選手がいることを忘れずに頑張りたい。明日は鵬の選手の気持ちも背負って戦いたい」と顔を紅潮させて誓った。