南国の怪物、日南学園(宮崎)の寺原隼人投手(3年)が、またとてつもない数字をはじき出した。玉野光南(岡山)戦の5回から登板。2イニング目の6回、ネット裏スカウトのスピードガンが98マイル(約157・68キロ)を計測した。今大会初めて入場券が売り切れるなど期待が集まる中、初戦で出した155キロを更新。プロ野球記録にも肉薄した。体調不良のため6回3失点と苦しんだが、打線が延長10回に勝ち越して3回戦進出。試合後、寺原は「これからはスピード記録より優勝」と、全国制覇に照準を合わせた。
寺原の本能が目覚めた。6回。1点を取られ、なお2死一、二塁のピンチ。玉野光南の1番福田への4球目がうなりを上げる。カウント2-1から三振を狙った外角への直球。バットに当てられファウルになったが、米大リーグ、ブレーブスのスカウトのスピードガンが98マイル(約157・68キロ)を計測した。伊良部(ロッテ→エクスポズ)のプロ野球記録158キロに肉薄する途方もない高校最速記録が誕生した。
11日の初戦(四日市工)で155キロを記録。注目度は高まるばかりだ。この日は平日ながら今大会初めて入場券が売り切れ、4万7000人が詰め掛けた。「甲子園記録を塗り替える」と言い続けてきた寺原には、熱視線が記録更新への後押しになる。同点の5回から登板すると、球場全体がどよめいた。「大きな歓声は聞こえました。期待にこたえるようにと思いました」。いきなり初球が150キロを計測。5球目には「前回のテレビ表示の151キロを超えます」の宣言通り、テレビ中継で154キロの数字をたたき出した。
あっさりと記録を更新したが、体調に不安を抱えたマウンドだった。「調子は悪くなかったんですが」。試合終了後、お立ち台では顔が真っ赤。タオルで顔を覆ったまま壁に体を預け、倒れそうなのをこらえていた。14日夜、宿舎のエアコンを切り忘れ、前日15日から体調を崩した。病院には行かず薬をのんだが、前夜は37・8度の熱があった。
不安は現実になった。自信を持つ直球が高めに浮く。6回には4安打され3点を失った。同点で迎えた9回には3四球で2死満塁、しかもカウント2-3のサヨナラピンチを背負った。「やべーと思った。8回から足にきていた。平常心で、焦らないよう悔いの残らないように投げた。アウトになった瞬間はホッとしました」。空を見上げてから投球。最大のピンチで支えになったのは、やはり直球。6球連続となる直球で三塁ゴロに仕留めた。
逆境に動じないハートは、中学1年のときに培った。体力アップを図るため自ら新聞配達を始めた。宮崎市内の5階建て市営住宅の階段を、雨の日も上り続けた。
エースの粘投にこたえるように打線は延長10回、2点を挙げて玉野光南を振り切った。宮崎県勢として甲子園50勝目で3回戦進出。「やっとここまで来たという感じです。ここまで来たから狙っていきたいです。狙うもの?
優勝です。もうスピード記録は狙いません」。不滅の高校最速記録を出した怪物クンは、次なる目標を、初の全国制覇1本に絞った。【村田義治】
◆計測メモ
寺原の最高速を計測したのはブレーブスの大屋スカウト。米製のためマイル表示で「98」が出た。1マイル=約1・609キロで換算、約157・68キロとなった。他ではロッテのスピードガンが155キロ、巨人は154キロ、テレビ中継したNHKの最速は154キロ。計測位置や機器の違いで差が出た。この日は、日米11球団のスカウトの姿が見られた。【2001年8月17日付・日刊スポーツ】

