<高校野球西東京大会:桜美林9-2翔陽>◇13日◇2回戦

 前パイレーツ桑田真澄氏(40)の長男、桜美林(西東京)の真樹外野手が1年生で公式戦デビューを果たした。西東京大会2回戦の翔陽戦の5回2死一、二塁で代打で登場し、父が見守る前で四球で出塁した。チームは9-2(8回コールド)で初戦突破した。上柚木(かみゆぎ)公園球場には、都大会初戦では異例の2000人観衆が詰めかけた。76年に全国制覇した強豪で、1年からレギュラー背番号「9」を背負った。甲子園通算20勝を誇る偉大な父の背中を追う。

 「代打桑田」のコールにスタンドが揺れた。5回2死一、二塁。打席に向かう息子を見つめ、観戦した父がつぶやいた。「ドキドキするね。(野球は)自分がやってた方がいい」と祈るような心境だった。真樹外野手は左打席でバットのヘッドを微妙に揺らし、タイミングをとった。

 観客の拍手、歓声、そして静寂。異様な雰囲気に相手投手が動揺した。初球が高めに浮くと、2、3球目とボール。カウント1-3から最後はスライダーがワンバウンド。1度もバットを振ることなく一塁へ歩いた。1年生デビューに「1打席だけだし、まだ実感はありません。振りたかったです」と、はにかんだ。

 76年夏の甲子園で優勝した強豪で、レギュラー番号「9」をつかんだ。だが大会直前に右ひじを痛め、ベンチスタートだった。父からも「無理するな」と助言を受けた。普段は右翼を守り、6番や8番に入る。野球センスは父譲りで、片桐幸宏監督(49)は「パンチ力があって逆方向にも強い打球が打てる。名前で使っているわけじゃない」と実力を認めた。

 父は1年夏の大阪府大会は背番号「17」。83年7月26日に先発で2安打完封デビューを飾ったが、真樹外野手も入学直後から練習試合で活躍。背番号と公式戦デビュー日では偉大な父を上回った。

 「桑田ジュニア」の初戦に異例の盛り上がりを見せた。上柚木公園球場は都大会で使用するようになって4年目。通常、大会初戦は数百人の観客だが、2000人が集まった。都高野連関係者は「4年間、こんなに入ったことなかった。断トツで一番。桑田さんの息子さんが出ることを皆さん知ってたんでしょう」と驚いた。試合開始前には、チケット売り場に長蛇の列ができたほどだ。

 父子2代の甲子園は桑田家の夢だ。小、中学時代は1軍練習後のジャイアンツ球場で夜遅くまで一緒にティー打撃を行った。真樹外野手は「ノーコンなんで投手は向いてない」と野手に専念し、父のノックで守備力を磨いた。昨年は大リーグ観戦し、現役最後の勇姿を目に焼き付けた。大会前には父のPL学園時代のビデオで打撃を研究した。この日、父子で言葉を交わすことなく「来てたんですか?」と集中。「お父さんの名前じゃなくて、自分の実力で注目されたい」とプライドをのぞかせた。

 父が高校野球を生観戦するのは実に高校時代以来。「小さい時、巨人のキャンプに一緒に連れてったことを思い出しますね。自分が高校1年生のころとオーバーラップする」。清原とのKKコンビで甲子園を沸かせた25年前と、息子の成長を重ね合わせた。偉大な父を追う夏が始まった。【前田祐輔】