<高校野球・秋季静岡県大会:常葉学園橘8-6静清工>◇27日◇静岡・草薙球場◇決勝、3位決定戦

 “泣き虫男”の一撃で、残り1枚の東海切符は常葉学園橘(推薦)が手にした。同点で迎えた9回裏1死一塁、7番伊藤圭一塁手(2年)の2ランで、静清工(中部1位)に8-6でサヨナラ勝ち。2年ぶり5度目の東海出場で、2季連続甲子園へ望みをつないだ。決勝は静岡商(同2位)の後藤翔平投手(2年)が好投し、6-1で東海大翔洋(同3位)に完勝。31年ぶり11度目の優勝を果たした。東海大会(10月24日開幕、愛知)の組み合わせ抽選会は同13日に行われる。

 弾道が、左翼スタンドに消えていった。と同時に、伊藤は込み上げる感情を、突き上げた右手で表現した。逆転して、突き放されて追いつき、離されても再び追いついて、最後に飛び出たサヨナラ2ラン。「本塁打は公式戦初めて。すっごいうれしいです」。ホームを踏むと、仲間にもみくちゃにされて喜び合った。

 期待に応えた。8回表に長谷川彦から大畑元貴(ともに2年)に投手交代。右翼に回る長谷川のため、従来は伊藤が退いたが「圭が打つ気がした」(黒沢学監督)と、この日は残った。2点を追うその裏、無死一塁で打順が回ると、気持ちを込めて強振。三塁打を放ち、大畑の犠飛で同点のホームを踏んだ。そして最終回。前日の敗戦後「全部出し切って、倒れるくらいやろう」と決め合った仲間に、歓喜をもたらした。

 涙を力に変えてきた。春は主軸ながら甲子園に行けず、8月3日の出発式では「僕も行きたい」と涙で仲間を見送った。大会期間中は、居残る学校で泣いてバットを振った。「僕以外、先発メンバーは全員甲子園に行った。負けたくない意地があった」。応援した小泉泰樹前主将も「朝練もみんなが起きる前に出るし、練習を一番やってきた男。うれしかった」と喜んだ。

 望みをつないだ2季連続出場の夢。「甲子園に立ちたいです」。誰より強い伊藤の気持ちが、常葉橘をがけっぷちから押し上げた。【今村健人】