<センバツ高校野球:新庄6-0東海大三>◇25日◇1回戦

 名刺代わりの奪三振ショーだ。新庄(広島)が、エース山岡就也(しゅうや=3年)の13奪三振2安打完封で初陣1勝を挙げた。東海大三(長野)打線を寄せ付けず、大会屈指の左腕の本領を発揮。県勢の春夏200勝にも王手をかけた。

 1回、先頭打者から三振を奪った瞬間、緊張気味だった山岡の口元が緩んだ。肩の力がすっと抜け、3者連続空振り三振。緩急で打者を困惑させ5回まで毎回の10奪三振、被安打1と完璧だった。

 「最初は調子が悪いと思っていた。でも捕手に聞いたら球自体は悪くないと言われて。三振も取れているしいけるかなと」

 最速144キロの直球には自信があった。この日は138キロどまりも、制球力で三振の山を築いた。奪三振13、被安打2、四球0。冬に課題として取り組んだ制球力の成果が花開いた。毎日投げ込みを行い、多い時は300球に及んだ。迫田守昭監督(68)は「途中で止めたこともあった。こんなに投げ込む選手は見たことない」と振り返る。

 誰よりも努力を惜しまなかった。小学1年から近所の広場にある壁を使い、投球練習。中学入学まで毎日投げ込んだ。もともと黒い壁がいつしか、ボールを当てた部分だけ白くなっていった。その姿勢は今も変わらない。深夜0時、誰もいないはずの寮の外から謎の音がするようになった。「ビュッ」「ビュッ」…。こっそり寮を抜け出した山岡が1人シャドーピッチングに励む音だった。同学年の舟橋投手は「1年の時からずっと続けていた」と明かした。

 中学では公式戦0勝。新庄に入学して努力が結実した。1つ上の先輩、巨人ドラフト3位田口麗斗とは寮で同部屋。アドバイスを受けることも多かった。「自分のピッチングが出来たと報告したい」。昨夏県大会決勝に延長再試合で敗れ、出場を逃した先輩の思いも継いだ。

 まだやり残したことがある。「今日は80点。球速が出ていなかったので。今度は140キロを超える球を投げたい」。初陣で手にした1勝はまだ序章。山岡のKラッシュが加速していく。【辻敦子】

 ◆山岡就也(やまおか・しゅうや)1996年(平8)4月17日、広島・安芸高田市生まれ。吉田小1年から「吉田少年野球クラブ」で野球を始め、投手。吉田中では軟式野球部に所属。新庄では1年秋からベンチ入り。最速144キロ。変化球はカーブ、スライダー。好きな球団は広島。173センチ、70キロ。左投げ左打ち。

 ◆広島のドクターK

 新庄・山岡が13奪三振。甲子園に金属バットが採用された74年夏以降に限ると、広島県勢では10年春の有原(広陵=現早大)が立命館宇治から奪った13個に並ぶ県勢最多タイ。

 ◆広島は長野が得意

 新庄が東海大三に勝ち、広島県勢は甲子園で長野県勢に13勝1敗(春4勝0敗、夏9勝1敗)。春夏通算で9連勝となった。